第10話 この子は苦手


「じゃ、じゃあその格好は?」

「セツキ様のモチベーションを上げるための衣装です。私はあくまで日本軍第三師団第四大隊第五中隊所属兵站裁判交渉人第二補佐官猿渡サエコ曹長。それが私の肩書きです」

「そ、そうなんだ。でもよく考えてみれば、メイド喫茶じゃあるまいし、そんなフリルやリボンなんてありえないもんね」


 僕はサエコちゃんの肩からワキにかけてぐるりと回るフリルや、胸全体を覆い尽くすおっきなリボンに視線を落とす。


「っ、いえ、これは」


 突然、サエコちゃんは言葉を濁した。

 すると、うちの情報担当、大丸ルイちゃんのいじわるな解説が乱入。


「にしし、サク殿。サエコちゃんのそれは、おっぱいちっちゃいのをごまかすために自分でつけたのですよ」

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■~~~ッッ‼‼」


 サエコちゃんの顔が一瞬でリンゴ色に染まって、垂直跳び。


 目にも映らぬ超高速で跳んだサエコちゃんは天井を蹴り、空中ダッシュでもするようにしてルイちゃんの机にダイビングアタック。


 手にはさっき、念入りに研いだ高周波ナイフが握られている。


「ひきこもりバリアー、オン♪」


 突然ルイちゃんの周囲の床から、青白いプラズマの光が天井に伸びた。


 サエコちゃんは光の壁に弾かれて床に着地。プラズマの光は消えた。


 よく見ると、ルイちゃんの周囲の床には半透明のタイルが張られていた。あれが簡易バリアー発生器なのかな?


「まぁまぁ、どうせいつかはバレるのですから、いいではありませんか」


 サエコちゃんは、まだ冷静さを欠いた顔でルイちゃんを睨んでいる。

 サエコちゃんのメイド服は、大ボリュームのフリルと立体的な特大リボンのせいで、胸元は装飾過多。

 服の上からは、バストラインが完全に隠れてしまっている。

 それに引き換えセツキ先輩の胸はご存じの通りだし……


「あとサエコちゃん、あんまりサク殿をいじめると、セツキ殿に嫌われてしまうのですよ」


 ルイちゃんが席から立ち上がると、苦しそうな胸が揺れた。


 軍服のミニスカートもお尻回りがキツそうで、全体的にもっちりした子だ。


 髪型は活動的なポニーテールだけど、本人いわく、ふわふわの髪質をまとめるのに楽だから、らしい。


 腰まで伸びたポニーテールを見て、前に邪魔なら切ればいいのに、と言ったら何故かサエコちゃんに凄く怒られた。


「むぅ、ルイが言うならば、善処しましょう」


 よし。


「ありがとうルイちゃん」

「はい、ではお礼としてチョコバー二〇本買ってきて下さい。もちろんサク殿のお金で」

「パシリはそのままなの!?」

「無駄口はいいから早く行って来るですよ」


 手でシッシッと追い払われて、僕は泣く泣く部屋のドアに向かって……あれ?


「って! サエコちゃん僕より階級も役職も下じゃん!」


 日本軍第三師団第四大隊第五中隊所属兵站裁判交渉人第一補佐官・鷺澤サク少尉

 日本軍第三師団第四大隊第五中隊所属兵站裁判交渉人第二補佐官・猿渡サエコ曹長


 僕は力の限り叫んだ。が、


「「今頃気づいたのですか?」」


 二人は感情のこもらない声だった。



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