第53話 オービット戦法
心美の顔が、にぱっと笑った。
「ファミリアダンス♪」
残る五機のオービットが、ありえないアクティブさで動いた。
射撃武器であるにもかかわらず、まるでソードビットのように叶恵に直接襲い掛かってくる。
「なっ!?」
叶恵は接近戦を展開、銃剣で斬り伏せようとするが、オービットは巧みに叶恵の銃剣をかわして、かわしながら通り過ぎざまに至近距離射撃を行って来る。
「あああああああああああ!」
叶恵が悲鳴をあげる。
全身の至る部位にプラズマ弾を受けて、電離分子装甲を突破される。
電離分子装甲配分を通常に戻していたので、一発で負けたりはしない。
だが、叶恵の電離分子皮膚の敗北ラインは確実に下がっただろう。
同じ場所に三度、四度と喰らえば、叶恵の負けだ。
それでも、
「まだまだぁ!」
叶恵は、オービットに食らいつく。
オービットはまだ五機もある。
この状態で心美に向かえば、背後から撃たれるだろう。
あと一機、せめてあと一機減らしてからでないと心美への攻撃は危険だ。
そうすれば、オービットの攻撃をかわしつつ心美へ射撃しても問題ない。
「くぅっ!」
叶恵は後頭部に迫るプラズマ弾を身をかがめてかわしたが、股下から撃って来たプラズマ弾にアゴを許す。
これでもう、胴体部の多くは一回以上のプラズマ弾を受けている。
一機のオービットが背後から叶恵を狙う。
その刹那、叶恵が振り向きざまに銃剣を振るった。
遠心力と質量をたっぷりときかせた横薙ぎの一撃は、心美のオービットを真一文字に裂いて、大きな亀裂を入れる。
スパークしたオービットが地上に落ちた。
これで残り四機、だが失ったモノが大き過ぎる。
その四機のオービットが、零距離で叶恵に銃口を突きつけている。
後頭部、右こめかみ、左わき腹、右横腹。
チェックメイト。
俺の奥歯に、力がこもる。
でも叶恵の目は死んでいない。
一秒間、戦場の時間が止まった。
時計の針を動かしたのは、やはり心美だった。
「カモン、ファミリア」
四機のオービットが、主人のもとに戻って行く。
背中に装備されたオービットを手の甲でなでると、心美は両手の電離分子小銃を量子化させた。
「すごいね叶恵ちゃん、最期のはどうやったの?」
叶恵は警戒しながら、瞳に闘志を燃やす。
「……会長のオービットは、死角からの攻撃が多いです。なので視界の外へ集中して、オービットの僅かな駆動音を頼りに背後を攻撃しました」
「正解♪」
心美の無邪気な笑みだった。
「ボクら搭乗者は、軍事甲冑からの補助で、視界が少し広くなって見える。だけどさすがに真後ろまでは見えない。でもそれが解っているからこそ、死角に意識を集中させる。敵がどこから来るか解っていれば、見る必要は無い……叶恵ちゃん、ボクと銃剣格闘をしようか?」
「え?」
意外そうに、叶恵は目を丸くする。
「銃剣術じゃなくて銃剣格闘ね、射撃あり斬りあり突きありの、一〇〇年以上前から廃れ続けている戦闘方法さ。今は高性能な剣と銃を別々に持つのが主流だからね」
心美の両手に、あらたな武器が再構築された。
それは銃口の下に大型の軍用高周波ナイフが取り付けられた、ハンドガンだった。
「もっともボクは二刀流だけどね、気分は宮本武蔵かな?」
「でもどうして……あのままなら会長が」
「いやいや、一次予選からあれほど見事な銃剣格闘を展開してくれた叶恵ちゃんと、一度も刃を交えないのはもったいないと思ってね。それに、ボク言ったよね? 関東大会にはボク以上のオービット使いがいるかもしれないって。例えボクがここで優勝しても、東京大会や関東大会で最強のオービット使いと当たったら他の武器が必要さ」
心美はいたずらっぽい顔で舌を出して、両手のハンドガンをひらひらと揺らす。
「だからこれはいい機会なのさ、ボクは銃剣格闘の使い手である君を、銃剣格闘で負かす。それでこそ、ボクはレッドフォレストに行けるんだ! 行くよ!」
叶恵の話は聞かず、心美は半ば強引に勝負を開始。
クイックブーストで距離を詰めて来た心美が、叶恵と鍔ぜりあう。
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