第51話 決勝戦!


『さぁ、それではみなさん、とうとう決勝戦が始まります! この戦いの勝者が我が学園の代表! 東京大会へと進出するのです!』


 最後の試合。俺と叶恵、そしてアメリアは最後の入場口廊下で並んで、出口の先にあるアリーナを見据える。


「これに勝てば東京大会。東京大会で優勝すれば関東大会。そして関東大会を優勝すればレッドフォレストだ」


「カナエ♪ 絶対絶対ヴィクトリーするデス! でないと許さないデスヨ♪」


「うん! 絶対に全部優勝する。そしてあたしはレッドフォレスト杯に出場して先輩と戦う! 朝更!」


 叶恵は頼もしい表情を俺に向けて、最高のスポーツマンスマイルを見せてくれる。


「見ててね、あたしが優勝するところ。この三週間で朝更が教えてくれた事、全部出し切って戦うから」


「……………………」


 あぁ……そうか、なんで叶恵の笑顔が眩しいかわかったよ。


 俺は、月を思い出す。


「おう、俺はいつでもお前を見守っているぞ」


 いつの頃からだろう。戦場に夢を見なくなったのは、希望を持てなくなったのは、戦いに疑問を持ったのは……そりゃ、こんな枯れ果てた年寄りに叶恵は眩し過ぎる。


 叶恵は、俺が失ったモノを全て持っているのだから。


 叶恵は、こんなにも希望を持って夢に向かっているのだから。



 もう随分と手に馴染んだ銃剣を手に、アリーナへ浮遊飛行で入場する叶恵。


 心美も入場して、会場は割れんばかりに盛り上がっている。


 だが実況者の解説とは別に、二人は会話をしていた。


「叶恵ちゃん……その顔は?」


 叶恵の左頬は、さっきの事件でついた平手打ちの後が、うっすらとだが残っている。


「……なんでもありません」


 叶恵の気丈な態度に心美は神妙な面持ちで何かを考えて、悲しそうな顔した。


「そっか……」


 心美は、哀愁を感じさせる息を吐きだした。


「ボクは、自分の未熟さにあきれ果てるよ。これでレッドフォレストに行くなんて、笑っちゃうよね」

「生徒会長?」


 叶恵が怪訝そうな顔で呼び掛ける。心美は気を取り直したように頷いて、叶恵と視線を交える。


「叶恵ちゃん。ボクは手を抜かないよ、でも、ボクを打ち破って欲しいな!」


 心美のファミリアオレンジの背面に装備されたオービットが四つ、パージされて心美の周りに侍る。


「かい……ちょう?」


『それではご来場のみなさん! 国防学園付属専門高校! 学園トーナメント決勝戦! 始めぇ!』


 叶恵がクイックブーストから流れるようにメインブーストへ移行。完璧な最大加速で心美へ接近。


 心美は、逆にクイックバックブーストで距離を取りながら四つのオービットを同時に発砲。


 オービットの銃口からプラズマ弾が次々放たれる。


「っ」


 浮遊装甲で地上を滑る叶恵は、プラズマ弾をアメフト選手ばりの走行テクニックでかわしながら直進。


「流石だね♪」


 心美の背中から残る四つのオービットも解放。


 さらに心美の両手に電離分子小銃が一丁ずつ再構築される。


 八つのオービットが、二丁のライフルが、一〇の銃口が叶恵を狙っている。


『すごーい! 全オービット解放! これはまさか、去年の関東大会以来かぁ!?』


「ファイア♪」


 倍以上のプラズマ弾は狡猾だ。


 ただ叶恵を正確に狙っているだけなら簡単にかわせる。


 だが一部は、叶恵ではなく叶恵の逃げ道に撃っている。


 プラズマ弾の包囲網。すると叶恵は、


「なら!」


 電離分子装甲の配分を操作。


 胴体部分は限界まで薄くして、かわりに両腕の電離分子装甲を厚くした。


 どうしてもかわせないプラズマ弾は両腕で受け止め、かすらせ、防ぎ、さばいていく。


 胴体の防御力を捨てた為、一発でも防ぎ損ねれば即アウト。


 でも叶恵は臆することなく、心美に立ち向かう。


 二人の距離が、徐々に狭まる。

「ボクのプラズマ包囲網をここまで防ぐなんて、東京大会でもそんなに多くは無かったよ」


 心美が空高く飛翔。叶恵も後を追う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る