第46話 ヒロインVS生徒会長
『それではこれより準決勝第二試合を始めます! これに勝った方が決勝戦へ進出。一年二組代表、藤林叶恵選手と対戦します! それでは、選手! 入! 場!』
アナウンスが流れる中、俺と叶恵は選手入場口の廊下で、アメリアを見送ろうとしていた。
「さぁ、ワタシのSHOW TIME! デスネ」
アメリアは両腕にアメリカ国旗である星条旗をあしらった銀色の機体。
愛機グラウンド・ゼロを手足にまとい、背中の銀翼をうならせた。
「頑張れよアメリア」
「YES! そしてカナエ、YOUにリベンジするです♪」
元気な笑顔に、叶恵も頷く。
「ええ、二人で決勝戦よ」
二人は好敵手同士の視線を交え、アメリアは視線をアリーナへと向ける。
「では、行ってくるデース♪」
グラウンド・ゼロがアリーナへ飛んで行く。俺らは入場口の近くにあるセコンド席へ移動する。
『まずは一年二組アメリア・ハワード選手です! 中学時代はアメリカニューヨーク州チャンピオンにもなった実力派! 果たして彼女はこの戦いに勝利して一年二組同士、叶恵選手と同部屋決勝戦を迎えられるのか!? 空飛ぶ武器庫、グラウンド・ゼロで登場だ!』
アメリカからの刺客という肩書を持ったプロレスラーのようなものなのか、アメリアが入場すると観客達がやたらと盛り上がっている。
もっとも、次はそれ以上の歓声となる事だろう。何せ……
『続いては、我らが生徒会長! 二年連続優勝で三連覇に王手をかけたオービットクイーン。我が学園が誇るエース、ファミリアオレンジの使い手、小野寺心美だぁああ!』
反対側の入場口から、本来サムライブルーのアシガルをオレンジ色に染めた心美が入場する。
その周辺には、八つのオービットが地面を向いて彼女に付き従っている。
途端に、肌を歓声がびりびりと叩いてくる。
この学園における心美の人気はかなりのものだ。
中にはよほど熱狂的なファンなのか、うちの制服を着た女子が喉が裂けそうな悲鳴を上げていた。
ちょっと怖いな。
「OH、YOUがこの学園のチッパイプレジデントデスネ」
「イエースイエース、アイアムチッパイプレジデント。って何言わすのさ、自分で言うのはいいけど他人に言われるのはムカつくんだぞ!」
そんな軽口を叩き、実況がいつものを始める。
『それでは用意はいいですね。準決勝第二試合! 始めぇ!』
試合開始のブザーが鳴り、アメリアはバックブーストで距離を取りながらガトリングで弾幕を張った。
「ふーん……よっと」
八つのオービットが一斉に心美の背に吸着、装備される。
心美は真上に飛翔。
妖精のように空を舞いながらガトリングの嵐をかわす。
「そこデス!」
弾幕で心美を振り回してから回避先へ榴弾砲を撃ち、だめ押しとばかりに右肩のミサイルランチャーから空対空ミサイルを六発発射した。
心美が弾幕をかいくぐり、榴弾を避けた先に、彼女をロックオンしたミサイルが複雑な軌道を描いて飛んで行く。
白い尾を引いて飛来するミサイルを、心美は腰の大型ナイフを抜いて対応した。
通り過ぎざまにミサイルの尾翼だけを切断。
コントロールを失ったミサイルはあらぬ方向へ飛んで行った。
だがそれすらもアメリアの予想の範疇だった。
今日のグラウンド・ゼロは右肩にミサイルランチャーを装備しているが、左肩にはグレネードランチャーを装備している。
「YES!」
ドンッ と大きな音を立てて放たれた一発のグレネード弾は、すでに心美の目の前にいた。炸裂して、クレイモア地雷よろしく放射状に周囲へ数千の弾頭をバラまく。
かわせる距離ではない。
至近距離で喰らえば即負けはないが電離分子皮膚は大ダメージを受けるだろう。
「みゃはん♪」
クイックダウンブースト。心美のファミリアオレンジが、神速を以って地上へ降下した。
弾丸のように空間から飛び出し回避した心美は一瞬で一〇〇メートル下の地上に着地、万分の一秒後には地上を疾走しながら大きく弧を描くようにして上昇した。
観客は一瞬何が起こったか解らないだろう。
答えは、アメリアの頭上にある。
「ホワッツ!?」
アメリアが自分の真下から真後ろへと飛行する心美を振り返る。
その様子に心美がにんまりと笑う。
次の瞬間。
アメリアの頭上から四発のプラズマビームが、束ねられたようにしてまとめて降り注いだ?
「!?」
「アメリア!」
叶恵の呼びかけも空しく、全弾をモロに喰らったアメリアは墜落。
アリーナの巨大投影画面には大きく『WINNER 小野寺心美』と表示されている。
観客が見上げると、アリーナの天井近くに四機のオービットが浮いている。
「……朝更、あれって」
「ああ、作用反作用の法則ってやつだ。あの距離、タイミングだと例えクイックブーストによる緊急加速でも榴弾の爆発は避けられない。でも心美は背中のオービットを四機、真上に射出する事でその反作用も推進力に加えたんだ」
「あの一瞬でそんな事を……」
「とっさじゃなくて、元から持っていた技術だろうな。本当に、昔からあいつは規格外だよ……」
叶恵の表情が、少し曇った。
「安心するな、油断するな、楽観視するな」
叶恵が俺を見上げる。
「危機感と緊張感を持って油断しないで全身全霊、お前の全てをかけないと勝てない相手だ。逆に言えば、勝てる可能性が十分にあるって事だ。どんな達人でも足下をすくわれることはある」
俺は、悔しそうな顔で地面に立つアメリアに目を向けてから、
「それに、アメリアの分も頑張らないとな。友達だろ?」
「……朝更……うん♪」
叶恵は目を輝かせて、胸の前でちっちゃくガッツポーズをしてくれた。
「朝更、絶対に勝と♪」
やっぱり、叶恵の笑顔は眩しかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます