第36話 逆チカン! テンプレなど知らん!
「お、おとこぉおおおおおおおおおお!?」
「オバサンじゃなかったぁああああああああ!?」
少女の両目がみるみるつり上がり、顔を真っ赤にして拳を突き上げる。
「ああああ、あんたよくも! よくもあたしの……ききききき、聞いたわね! あたしの聞いたわね! エッチ変態性犯罪者! あたしがトイレに入るのを見計らったわね!」
「いや俺お前がいるなんて知らねぇよ!」
「だいいちなんでここに男がいるのよ! ここ女子校でしょ!」
柳眉を逆立て激昂する少女に、俺は溜息をついた。
「やれやれ、俺はここのコーチなんだよ。コ・オ・チ」
「嘘よ! そんなの信じられない! あんたいくつよ! 未成年でコーチなんて」
「俺だよ俺、桐生朝更。地上じゃテレビや雑誌で有名なんだろ? まぁここのコーチになれたのも、そのおかげなんだろうけど」
「え?」
と、少女の目がまんまるになって、俺の顔に注目する。
「あっ! あんたあの軍神! って、そんなの関係無いわよ! 乙女を犯した恨み~」
少女の背後に、メラメラと炎が沸き立った、ように見える。
「いや何を犯したんだよ」
「精神的に犯されたようなもんよ! 乙女の恨みを喰らいなさい性犯罪者野郎!」
少女が靴底を突き出し上段蹴りを放って来た。
俺は半歩下がり、靴底は俺の目の前五センチで勢いを失ってしまった。
「ふっ、性犯罪者のくせにやるじゃない変態!」
少女はくりくりのお目めを必死に吊り上げて、漫画のエリート系ライバルキャラみたいな顔をしようとしている。
だが、俺は言わねばなるまい。
「パンツ見えてるぞ?」
「はい?」
彼女の視線が、ススッと下がり、顔が爆発した。
小柄な彼女が男子である俺の顔を蹴ろうとした結果。高々と上げられた右足からスカートはずり落ち、めくれ、白いショーツが丸見えだった。
「いやぁああああああああ! いやぁああああああああああ!」
「って、そう言えばお前その制服、うちのじゃないよな、どこの高校だ?」
「誰が性犯罪者なんかに言うもんですか! そうやって個人情報を特定して住所をつきとめ私の家に押し入り下着と便座カバーを盗む気ね! なんて小賢しい男! あああああ、この去年の埼玉県代表選手児玉瑠奈(こだまるな)の妹の児玉陽菜(こだまひな)様がこんな男にパンツを見られるだなんてぇ!」
「へぇ、お前児玉陽菜っていうのか」
「ゆ、誘導訊問とは卑怯よ!」
「えー……」
その時、トイレのドアが開いた。
「やぁ朝更君じゃないか、何かうるさかったけどうしたんだい?」
「おう心美」
姿を現したのはツーサイドアップが可愛い俺の幼馴染であり、この学園の生徒会長、小野寺心美だ。
「あっ、心美! この性犯罪者野郎があたしを」
「聞いてくれよ心美、こいつが急に俺にパンツを見せながら襲い掛かって来たんだ」
「え?」
陽菜の顔が凍りつく。
「なんだって! それは酷い! ボクの朝更くんの童貞を白昼堂々奪おうとするなんて許さないぞ陽菜ちゃん! 婦女暴行強姦未遂で連行する!」
「ちょっ、あんた」
陽菜が八重歯を見せて怒鳴る。
「なになにー?」
「どうしたのー?」
隣が女子トイレのせいか、俺らのいる来客用トイレには次々女子達が流れ込んで来た。
「みんな聞いてくれ! この去年の関東大会でボクにお姉さんを倒されて悔しがっていた児玉陽菜がトイレに押し入り朝更くんにパンツまる出しで襲い掛かったんだ!」
「脚色するなぁ!」
陽菜の話なんて誰も聞いていない。
皆口々に、
「まぁ、なんて破廉恥な淫乱女子なの!」
「私達の朝更くんをレイプしようなんて許さないわよ!」
「男子トイレに押し入るなんて余程飢えているんだな。よっ、変態女子」
四面楚歌の状況に、陽菜は震え、目に涙を浮かべてから、
「うえーん、朝更の馬鹿ぁ!」
泣きながらトイレの窓から脱走。
どこかへ走って行った。
「っで、結局あいつは何しに来たんだろうな?」
「偵察だよ、去年も来てたし。ボクは一年も二年も東京代表として関東大会に出ているし、自分の目で少しでもボクの情報が欲しかったんじゃないかい?」
「心美はモテモテだなぁ」
「そうそう、ボクはモテモテなのさ!」
えっへん、と平らな胸を張る心美。周囲の女子達はそんな心美の頭をなでて愛でまくった。
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