第33話 奥義!後出しジャンケン!
二週間前。
「叶恵、お前剣道やってたなら、剣道にもジャンケンがあるって知っているか?」
「ジャンケン?」
練習場で、甲冑を装着した叶恵が首を傾げる。
「接近戦の攻撃方法は大きく分けて三つ。アタック、フェイント、カウンター。ようするに攻め技、騙し技、返し技だな。叶恵、試しに剣をななめに振ってくれ」
「こう?」
叶恵が銃剣をゆっくり振ると、オオクニヌシに乗った俺も高周波刀を振って鍔迫り合いになる。
「アタック同士だとあいこ。じゃあもっかい振ってくれ、今度はもっと早く」
「えい!」
斜めに振り下ろされる銃剣。
俺は一歩踏み出して距離を詰めつつ叶恵の銃剣を弾いて、その反動を利用してそのまま叶恵の額に刃を寸止めした。
「うわわ!」
「こんな風にカウンターは名前の通り返し技だから、攻めに強い。今度は俺が振るから、カウンター頼むぞ、ほい」
「てりゃっ……あれ?」
俺の刀は振ると見せかけて、直前で退いた。
俺の刀を払おうとした叶恵の銃剣は空ぶり、その隙を見逃さずに俺は叶恵の額を優しく小突いた。
もちろん電離分子装甲があるので叶恵は無傷だ。
「じゃあ叶恵、次はフェイントを頼む」
「う、うん……はぁ!」
「どりゃああああああああああああ!」
「うぇ!?」
銃剣を振るフリをした叶恵に対して、俺は思い切り刀を振って叶恵の銅を撃ち払った。
「もう何よ朝更の嘘つき!」
頬を膨らませて抗議をする叶恵。
あまりいじめるとかわいそうだからこのくらいにしよう。
「悪い悪い、でもこれで分かったろ? アタックはカウンターに弱くて、カウンターはフェイントに弱い、フェイントはアタックに弱い。これが近接戦闘におけるジャンケン。剣道初段ならたぶん叶恵は無意識的に使っていると思うんだけど、試合では相手の動きに合わせて上手くこのジャンケンを使いこなす必要がある。この二週間でジャンケンの対応を完璧にした上で、叶恵には超反応力を持つ奴にだけ許された技を覚えてもらう」
「奥義!?」
ぱぁっと目を輝かせる叶恵。
解り易いなぁ。
「ああそうだ。向こうから突っ込んできてくれる超攻撃型の奴には相対突き。でもこれから教えるのは防御型の敵を仕留める為の奥義だ。原理は単純、相手の技を見てからこっちの手を出す、もしくは変えるんだ」
「見てから?」
「そうだ。このジャンケン駆け引きの中には誘いがある。カウンターで敵を倒したい、なら相手にはアタックしてきて欲しい。ならこっちはアタックに弱いフェイントを連発して見せて相手のアタックを誘うんだ。普通の剣士はこの方法で戦っていて、でもそう上手くはいかない。アタックしてきたと思ったらフェイントでこっちのカウンターが空ぶり、なんて可能性もある」
「そりゃそうでしょ。だから剣道の試合に必勝法なんてないし、何が起こるか解らない。熟練の剣士じゃないと本当の先読みなんて無理だもん」
「先読みなんてしなくていい。だってお前は、見てから動けるんだから」
「あ!?」
叶恵が口に手を当てる。
「そう、つまり超動体視力を持つお前なら、相手の攻撃がなんなのか見てから超反射神経で動ける。たぶん叶恵は今まで反応力を生かしてない普通の、オーソドックスな戦い方をしていたから強豪になれなかったんだよ。動体視力にあかせて来る攻撃を片っ端から防いだり、イケるって思った瞬間ただ攻撃するだけでも剣道初段なら取れただろうけど、これからはただ見るんじゃなくて、このジャンケンに集中して見て戦うんだ」
「じゃあ奥義っていうのは」
「そう、ただ相手の手を見てから動く、もしくはこちらの手を変える後だしジャンケン。後ジャンだ」
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