第19話 中学生兵士になった理由
俺らは一件の喫茶店に入り、てきとうな席に座った。
女子に人気の店なので、日曜日と言うこともあり、店内はカップルや女友達同士のグループが多いように感じる。
観葉植物が多く、壁や窓枠は合成素材だが木目柄にすることで店内がやわらかい印象を与えてくれる。
俺らが席に座ると、目の前に表示された投影画面に料理のメニューが映る。
俺は慣れた手つきでいつものページをめくり、ハンバーグを指でタッチして頼んだ。
その様子に、まだ選んでいない叶恵が、
「朝更って、もしかしてこの店知ってる?」
「知ってるってより、俺元々国防学園付属中学の生徒だし、ていうか実家はそんなに遠くないって言ったよな?」
「あ、ああそうか、そうだよね! なんかごめん、偉そうに案内してあげるだなんて。良く考えればすぐ解るよね。学校から実家近いならこの辺も知ってるよね」
叶恵は恥ずかしそうに両手で顔を隠して、指を開いてこっちを見る。
「朝更も言ってくれればいいのに……」
「知っている街でも、叶恵くらい可愛い女の子と歩いたら新鮮だろ?」
指の隙間が閉じた。
両手で顔を隠したまま、叶恵はうつむいてしまう。
「でも不思議だよなぁ。俺ら戦争しているんだぜ」
若い子達が楽しそうに食事を楽しむ店内を見渡しながら、俺は呟く。
「日本は今まで、いろんな大戦に関わって来た。二十一世紀は北極圏を、二十二世紀は太平洋を取り合って世界は戦争をして、だから二十三世紀はきっと南極を取り合って大戦が起きるって言われて、でも軌道エレベーターを完成させて、簡単に宇宙に行けるようになった人間は氷の大陸よりも先に、宇宙に手を伸ばした」
俺は窓の外から、昼月を見上げた。
「信じられるかよ。俺ついこの前まで、あそこにいたんだぜ。地球からじゃ平和に見えるけど、今でもあそこで毎日数えきれない人が戦死している」
叶恵が両手を下ろして、うつむいた顔をあげる。
「ねぇ、レッドフォレスト杯に出たい理由を言わないのに、あたしだけこんなこと聞くのはどうかと思うんだけど……」
「なんだ?」
叶恵は一度言葉を吞みこんでから、
「朝更はさ、なんで戦争に行ったの?」
叶恵は回りのお客さんに聞こえないよう、静かに問う。
「だってそうでしょ? 雑誌で読んだけど、朝更って中一で全国大会優勝して、二年生になる時そのまま軍に入って戦場に行ったって」
叶恵は店内に視線を投げる。
「みんな凄く楽しそう。そうだよね、だってそういう年頃だもん。でも朝更、きっとこういう事、ぜんぜんできていないよね? あたしもだけど、朝更子供なのにずっと、ずっと戦場で戦って、人を、殺して……」
テーブルに視線を落とした叶恵の声は、少し震えていた。
「あたしも、本でだけど戦争がどういうのかは知っている。凄く怖くて辛くて苦しいものだってのは頭で分かるの。でもそんなところに、これから出兵でも酷い話なのに、中学生を戦争に行かせるなんて……」
不安そうな、同情するような、そんなネガティブな感情を表に出して俺を見つめる叶恵。
俺は無感動な頭で、軽く下唇を突き出した。
「心配してくれてありがとう。でも、なんていうか俺、そういうのもよく解らなかったんだよな? 子供の頃から戦場生活だから、逆にこれが普通っていうか、価値観は人それぞれだろ?」
叶恵の顔から、僅かにマイナスの感情が抜けて、かわりに不思議そうな空気が強くなる。
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