オールジョブ人狼ゲーム

鏡銀鉢

第1話 気が付けば知らない天井

 目を開ければ知らない天井だった。


「はっ?」


 わけがわからず上体を起こして状況をチェック。

 俺は学生服でベッドの上に寝ていたらしい。


 そんで周囲を見回すと、ホテルの一室といった風情。

 それも、かなり高級っぽい。


 言っておくが今は修学旅行や家族旅行の途中ではない。

 学生服で家族旅行は変だし。

 うちの学校はこんないいホテルに止まる豪華修学旅行なんて企画しない。


「おちつけ、おちつくんだ。リラックス、深呼吸……よし、うん」


 状況確認完了。

 知らない間に学生服姿で知らないホテルに寝かされている。

 これなんて誘拐?


「えーっと確か俺は」


 最後の記憶を大急ぎで掘り返す。

 いつもどおり高校が終わって、帰る途中だった。

 通学路を歩いていたのは覚えている。


「外は」


 部屋の時計を見る。

 時計の針は午後八時調度を指している。

 今は五月だけど、流石にもう真っ暗だろう。

 そう思っていたのに、俺の予想はまとはずれだったかもしれない。

 窓に近づいてカーテンを開けて、俺は首をひねった。


「夜? にしては……」


 窓の外は真っ黒だった。

 でも、月明りや街の明かりがまるでなくって、まるで黒い画用紙を張りつけたみたいに外が黒い。

 試しに窓を開けて手を外に出そうとする。

 すると手が止まった。


「いやいやいやいや! おかしいだろこれぇ!」


 壁に阻まれているわけじゃない。


 手が、何も感じない……


 俺の右手は黒い壁に触れているのに、空気に触れているようで、でも手がまったくもって前に進まない。


 オタク、というわけではない、人並み以上にマンガやゲーム、ラノベやアニメを嗜む俺が表現するならあれだ。


 空間が遮断されている。


 うん、そんな表現がしっくりとくる。


 俺は急いで外に出ようとする。


 部屋のドアは、普通に内側からカギを開けられた。


 ドアノブをひねって外に出ればどこは廊下。


 部屋同様、結構立派で、綺麗で、俺のいた部屋と同じドアがずらりと並んでいる。


 ドアに施された彫刻細工が、なんだか庶民の俺からするとすごく高級っぽい。


 よくみりゃドアノブ金色だけど、まさか金箔じゃないだろう。


 きっと五円玉と同じ真鍮だ。


「おっと、そうじゃなくて」


 俺は首を回して廊下の奥をチェック。

 左奥は談話室になっている。

 広い空間に、机といすが並んでいる。

 右奥は、さらに広い部屋のようだ。

 俺は右奥へ足を運んだ。



   ◆



「ここは……」


 ホール、とでも言えばいいのだろうか。


 何十人も入れそうな部屋にはいくつもテーブルが並んでいて、そのまわりにソファが置かれている。


 この部屋がこの建物、たぶんホテルの中央なんだと思う。


 部屋から四方に伸びた廊下。


 そのうちの一つは、俺が来た廊下だ。


 残る三本の廊下を調べようとして、俺は一本の廊下に吸い寄せられた。


 体ではなく、精神がだ。


 その廊下の奥は黒いドアになっていた。

どう考えても怪しい。


 なのに俺は、どうしてもその奥に行かなくてはならない気がした。


「まぁ、あそこが玄関で外に出られるかもしれないし……」


 なんて自分に言い訳をしながら、俺の足は自然とそのドアに向かってしまう。


 近くでも見ると、ますます異様なドアだった。


 このホテルみたいな建物の内装と違って、そのドアには飾り気がない。


 ただの黒い板を二枚並べただけ。


 そんな、あまりに単純すぎるデザイン。


 取っ手もないそのドアを、俺は手で押して開けた。



   ◆



『ようやく来たですねメガネくん♪』

「っ…………」


 明るい声と、その光景に俺は唖然としてしまう。


 巨大な裁判上。


 それが第一印象。


 いや、裁判上を模したカジノか?


 まわりにはごちゃごちゃと無駄な飾りが多くて、天井にはシャンデリア。


 おまけに、極端に露出の多いバニーガールのお姉さんが何百人も、あらゆる場所にいる。


 傍聴席や、検事や被告が座る場所とか、とにかく部屋のいたる場所に立っていて、楽しそうに笑いながら俺を見下ろしている。


 裁判上の真ん中には、各席が胸辺りまで板で仕切られた円卓。


 俺は、その席の一つに立っている。


 振り返れば、後ろの壁にぽっかり穴が開いている。


 あそこから歩いて来たのか? 俺?


「これで全部か?」


 声に気付いて、視線を落とす。


 裁判上、いや、会場を見上げ回していた俺が視線を下ろすと、俺と同じようにして九人の男子と女子がいた。


 円卓の席は全部で一〇個。


 俺を含めて男子が五人。

 女子も五人。


 みんな俺と同じぐらいの年に見える。

 そして、テーブルの上にはそれぞれネームプレートがあった。


 アフロ頭の男子の前には『アフロ』。

 ハゲ頭の男子の前には『ハゲ』。

 パンクヘアーの男子の前には『パンク』。

 オールバックの男子の前には『オールバック』。

 なんだかみんなガラが悪そうだなぁ。


 女子は、と。


 頭を金髪に染めているけれど、それ以外は普通のブレザーで、別に不良っぽくない女子の前には『キンパツ』。

 長い黒髪を下ろした、おとなしそうな女子の前には『ロング』。

 みつあみヘアーで、怯えた様子の小柄な女子の前には『みつあみ』。

 髪にシャギーを入れた女子は前には『シャギー』。


 そして最後に、俺のちょうど真向かい。


 クールビューティー。


 そんな印象の綺麗な顔立ちをした美少女の前には『ツインテ』というネームプレートが置いてある。


 事実、彼女の長い髪は頭の左右で白いりぼんに縛られていた。


 一言も話していないのに、第一印象だけで彼女の情報が俺の中で爆発した。


 頭が良いとか。

 言葉遣いが丁寧とか。

 夜は一人、生理整頓された部屋で紅茶を吞んでいる……とかさ。


 『ツインテ』じゃなくて『美少女』でもいいと思う。


 おっと、そういえば俺のネームプレートは……

 ……『メガネ』だった。


「なんで俺だけ髪型じゃないんだよ!」


 思わずキレてしまった。

 アフロとパンクが大笑いしている。

 ムカついた。


『えー、だって君の髪型特徴ないんだもん♪ あひゃひゃひゃひゃ♪』


 会場に入って、最初に聞いた声。


 俺は裁判長席を見上げた。


 露出過多で、かつ個人差はあるけれど、大半が驚くほど爆乳爆尻のバニーガール達が並ぶ中、裁判長席に座る彼女だけはゴスロリ童女だった。


 童女。

一〇歳とか、そこらへんの感じ。


 そいつが白黒のロリロリでフリフリな服を着ている。

 銀髪で瞳は血のような紅。

 でも顔はお人形さんのようにとびきり可愛くって、表情もめちゃくちゃ可愛い。

 可愛い顔で可愛く笑っているから、もう反則だ。

 でも俺は言った。


「だからメガネって! 俺にメガネ以外の特徴がないみたいじゃないか!」

『うん♪』

「即答!?」


 俺は両手を円卓につけて思わず、どよーん、と落ち込んでしまう。


「おいニャルなんとか! 善人あつまったならさっさと説明しやがれ!」


 アフロ男子が声を張り上げている。

 そうだ。

 そもそも俺はなんでこんなところにいるんだ?


 爆乳バニーガールだらけのこんなステキ天獄にいるのはわかったけど、後で何もしていないのに何百万とか請求されないだろうな!?


 ゴスロリ童女は愉快な笑顔を絶やさず手を叩く。


『ハイハイ。それでは楽しいゲームのルールを説明致しましょう♪ これから皆さんにはコロシアイゲームをしてもらうですよ♪』


 アフロが、


「は? 殺し合い、お前何言ってんだクソガキ」


 シャギーが不思議そうに、


「なんの冗談よ?」

『ジョークでもなんでもないですよ♪ これから皆さんには人狼ゲームをやってもらうのですから♪』

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ニワトリが飛べないのは才能でも努力でもなく環境のせいだ! 無能な少年と師匠の出会いが、一人の英雄を誕生させる──。

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