第13話 トラ少女 ティア・アムール
「戦遊戯?」
「はい。一対一の決闘では済まない時に行われる大決闘祭です。それぞれの群れから決められた人数と場所で正々堂々戦う勝負事です。規則に従い、敗者は勝者をボスとして認め、勝者は敗者を新たな家族として愛する事を誓うのです」
僕はちょっと気持ちが楽になる。
確かに、野生動物もボス争いや縄張り争いで戦う。でもそれは人間みたいな醜い権益争いとは違う。
それは人化しても同じようで、この世界の争いはあくまでボスを決めるためのモノで、敗者から勝者が搾取するものではないらしい。
ファノビアさんが、説明に補足を入れた。
「姫様方ライオン族が百獣の王となられたのも、古代に行われた全種族参加の一大大戦遊戯にて見事勝利を治めたからです。そして姫殿下のバーバリー家は、そのライオン族の王でした。私のアフリカヌス家は当時のゾウ族の王で、他にも当時の大戦で終盤まで勝ち残った種族の王家は現在、公爵家として王家に仕えております」
「最後はあたし、ティア様のアムール家との一騎討ちだったのよ!」
さっきの白虎少女が立ち上がって、自慢げに胸を張る。
アムールトラ。世界最大最強と言われるシベリアトラの事だ。
この子達は人化しているけど、バーバリーライオンVSシベリアトラって、動物ならまさしく頂上決戦だなぁ。サイやカバでも割り込んだら食べられちゃう気がする。
でも、本当に一番強いのはゾウだと思っていたんだけどなぁ。
僕の視線に気づいたのか、ファノビアさんが白虎少女のティアを座らせながら答える。
「単純な戦闘力ならば我がゾウ族の右に出る者はいませんが、残念ながら戦いは体格だけでは決まりません。圧倒的な戦闘センスや戦士の勘の差で、我がゾウ族はライオン族とトラ族に敗北を認めました」
戦いは体の大きさじゃ決まらない。そこが草食動物であるゾウと、絶対的捕食者である肉食動物との差なのかもしれない。
「しかし、帝国軍は一切の取り決めも連絡も無く、突然山脈を越えて攻め込み、支配した土地から国民を追い出してしまいます。彼女達は群れのボスではなく、土地を奪う為に攻め込んできたのです」
そう聞くと、なんだかすっごく腹立たしくなってくる。
動物なのに私欲の為に酷い事をする連中だ。
「なんて悪い人達だ。その帝国軍って誰なのっ。みんなでおしおきしてしつけをしないと」
僕はブリーダー気分で、頭の中の『ペットのしつけ知識』を引っ張りだす。
こっちには最強のライオンやトラ、見たところクマやゾウもいるし、何が相手でも負ける気はしない。いけない子にはおしおきだ。
僕は握り拳を作って、この世界を平和にしようと意気込んだ。
「はい。恐竜族です!」
「…………きょう、りゅう?」
恐竜。三畳紀、ジュラ紀、白亜紀の中生代に地球の覇者となった大型爬虫類の総称。(より厳密には直立歩行をするモノのみを言う)
氷河期で絶滅したけど、誰もが認めて疑わない、地球開闢史上最強最大の生物群である。
地上最強生物ならゾウやライオンが候補に上がるけど、史上最強生物なら、現代生物が入る余地なんてない。
「って、なんで恐竜がいるのさ! もう絶滅したはずでしょ!」
「記録だと前回のニンゲン様も同じことを聞かれたようですので御説明します。ファノビア」
レオナから引き継いで、またファノビアさんが説明モードに入る。
「はい。ここは神が作りし箱庭、エデンの園です。地球では長い歴史の中で多くの動植物が絶滅したようですが、エデンにはこの世の全ての生物が同時に作られ、今でもそのまま生き残っています」
「そんなわけ、あ」
僕はこの世界、エデンに来た時、戦場で見た怖い女の人達を思い出す。
みんなを見る限り、元になっている動物の体長が身長に、体格が体の発育具合に関係しているらしい。
哺乳類しかいないこの場にいるのは、みんな小学生から中高生ぐらいの子達だ。
唯一の例外はゾウ族のファノビアさんだけど、僕を追いかけて来た人達は、みんなファノビアさんみたいな大人の女性だった。
むしろ、中にはファノビアさんすら凌駕する体格の人もいた。
「そうか、あの人達って恐竜だったんだ。だから……」
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