第5話 異世界統合


 人間達の四大大国の一つでエリスの故郷、リンドバルム王国の城の大講堂には先刻の大地震に関する問題で首都中の重要人物が集まっていた。


 各部門の大臣やその重臣、国の機関を任された責任者達に一等貴族など錚錚(そうそう)たるメンバーが一同に会して、まさに戦争でも始まるのかと思うほどの空気であった。


 だが奇妙なのはここが日本の学生である凛一がいる世界であるにも関わらず講堂の内装や集まった人々の格好が中世ヨーロッパ風である点だ。


 なのにこれはお芝居でも映画の撮影でもなく、彼らは皆、間違いなく本物(・・)である。


 大学の階段教室のような部屋の各段のテーブルの席が全て埋まると正面の黒板と教卓のようなテーブルの間に黒いローブを纏(まと)った二十代半ばほどの男性が立つ。


 彼こそは若干二七歳で魔術協会四大部門の一つである黒魔術協会会長に上り詰めリンドバルム最強の魔術師と言われる天才黒魔術師ランバースである。


 美しい黒髪を揺らし、整った容貌を真剣な眼差しでいつも以上に引き締めてランバースは集まった面々の顔を確認して語り始めた。


「それでは緊急事態ですので単刀直入に申し上げますと先程の地震で我々の世界を含むいくつかの異世界が融合をしたようです」


 異世界同士の融合、その言葉に皆がざわめく。


「静粛に、それではこれからその原因をご説明します」


 ランバースが指を鳴らすと目の前に牛や馬が入ってしまいそうなほど巨大な水槽が現れてその中をいくつかの球体が浮かび漂っている。


「まずこの世にはいくつもの異世界があり、それらはこのように漂っており我々のいるこの世界もこの中の一つに過ぎず、この球体が世界で球体と球体の間の隙間を次元の間(はざま)とお考えください」


 ランバースが説明しながら水槽と大臣達の間に移動して中の球体と何も無い場所をそれぞれ指して示す。


「ですがそれぞれの世界はビックバンと呼ばれる現象で誕生して以来、常に大きく膨らみ続けています」


 ランバースが再度指を鳴らすと水槽の中を漂っている球体が膨らむ。


「今までそれぞれの世界は独立し、衝突せずにいましたが世界が誕生して数十億年、限界が来たのです」


 水槽の中の球体の内二つがぶつかり、続けてまた一つ二つとぶつかり四つの球体がぶつかったままくっついてそのまま混ざり、一つの大きな球体となる。


「この現象はいずれ起こるであろうと予測され、私の師匠も論文を発表しましたがこの世界が収まる水槽の大きさや異世界の数が把握できず、明日起こるか一万年後に起こるかと言われていましたが、どうやら今日起こってしまったようです」


「ランバース会長、それはつまりこの世界に異世界の住人達が紛れ込んでいると?」


 立派な口髭を蓄えた老人の質問にランバースは被りを振ってから力強く応える。


「その表現は正しくありません、みなさんも誤解の無いようにお願い致します。我々の世界に他の世界の一部が召喚されたわけでも複数の世界が繋がったわけではありません、我々の世界を含める複数の世界の全てが完全に混ざり融合し一つの世界になったのです」


 ランバースの一切の隠しだてをしない、だが余りにも衝撃的な事実に集まった人々は誰もが絶句し、そして震えた。



   ◆



「って、あたしの友達が言ってたわ」


 エリスと竜輝の戦いでだいぶ荒れてしまったが木が邪魔じゃないだけマシだと凛一達は今まで通りの開けた場所に留(とど)まり、エリスの説明を黙って聞いていた。


「火苦板(ビッグバン)?」

「ビッグバン現象と宇宙が光の速度で膨張してるってのは聞いた事はあるけど……なぁ」

「あーそう言う訳か、それなら納得だな」

「「順応早いな!?」」


 驚く武術家とパイロットに凛一は小首を傾げる。


「えっ? だって別に問題ないだろ? 世界が大きくなり過ぎてくっついたんだから、魔法の力で無理矢理主人公だけが異世界に飛ばされるよりは無理じゃないだろ?」

「すまんが何を言っているかわからん」

「オレ様ちゃんもちょーっとお前の考えは分かりかねるかなー」


 巨大ロボから降りて一緒にエリスの説明を聞いていた彼の名はセイル・ファンバー。


 巨大ロボ・アークを使ったブレイブとかいう世界最強の傭兵集団のエースパイロットで身長は凛一やエリスよりもやや高いが竜輝よりは低い。


 端正な顔は表情豊かで明るくエリスや竜輝のようなとっつきにくさは無いが軍人らしさも無い。


 と言っても実際は軍人だけあって全身を覆ったパイロットスーツの下はかなり鍛えているのだろう。


 かがんでもまだ地上から四メートルは離れた操縦席から苦も無く降りてきた手際は見事としか言えなかった。


 セイルは髪も目も茶色で顔立ちはアジアとヨーロッパのハーフのような感じで、だがやはり本人曰くアジアもヨーロッパも知らないらしい。


 中世ヨーロッパ風のエリスに中世日本風の竜輝、までは良かったとしても流石に巨大ロボットの存在に違和感を感じた凛一の提案で全員の情報を持ち寄った結果、凛一が出したのは異世界同士の融合説でそれを聞いたエリスが以前、友達の魔術師から聞いたという話を伝え今に至る。

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