第三十五話「顔合わせと指名依頼」
「あっ、サダウィン様!」
「ベティか、メリーはいないのか?」
「いません。ですので、このあたしベティが対応させていただき――あいてっ」
「なにナチュラルに私をいない存在にしてるのよ……。ベティ、後で休憩室に来なさい」
「……はい」
相変わらず、サダウィンのこととなると見境が無くなるベティ。そして、その愚行を冷静にメリーが止めるところまでがセットになっている。
ベティに代ってメリーが受付カウンターに座り、軽く一礼してサダウィンに用向きを聞いてくる。彼はゴードンから受けた指名依頼の詳細を知りたい旨を伝え、メリーがいつものように真面目に説明してくれる。
「サダウィン君が受けてもらった依頼は、レインアーク王国の物流の要となっている都市の一つロギストボーデン。そこを拠点に、幅広く商業活動を展開するエトムート商会で会頭を務めるヨルク・エトムート氏が今回の依頼者となります」
「話では、すでに依頼を受けた冒険者パーティーがいるとか」
「ええ。実力的にはFランクなんだけど、少し心許ない部分があって、ギルドとしても依頼の補充要員を探していたんだけど……」
「今回は、そのパーティーの助っ人要員として参加してもらいたいと聞いたが」
「それで問題ないわよ。依頼の内容は、ヨルク・エトムート氏を無事にロギストボーデンまで送り届けること。ロギストボーデンは、このグロムベルクの街から馬車で片道二週間ほどの距離にあるわ」
それから、メリーから聞ける内容は聞けたので、そのまま宿に戻ることにした。ちなみに出発は、サダウィンが依頼を受けてくれたことで出発の準備が整ったようで、急ではあるが明日の早朝となった。
「じゃあ、俺は宿に戻る。短い間だったが、世話になった」
「こちらこそ、またこの街に来ることがあれば、その時はよろしくね」
「サ、サダウィンざまぁー!」
彼が宿に戻ろうと、最後にメリーに挨拶を交わしたところで、急にベティが顔を崩しながら泣き始めた。せっかく出会えた好みの男の子と別れなければならない寂しさから来るものなのだが、問題はその泣き方である。
他の冒険者が何事かと目を向けてしまうほどにぎゃあぎゃあと泣きながら、おうおうと嗚咽を漏らしている。そこに女の子としてのおしとやかさの欠片はなく、百年の恋も冷めてしまうほどだ。
サダウィンとしても、自分の別れをこれほどまでに惜しんでくれることに対しては嬉しくもあるが、そのあまりにもあまりな泣き方に若干引いていた。
「ベティ、元気でな」
「さだびんだまぁー! あいごぼおぼびでび、きずしでくだだい」
「……は? なんだって?」
「ぐすっ……。ですから、最後の思い出にキ――うぐっ」
「……?」
「おほほほ、何でもないわよサダウィン君。明日は早いんでしょ? 早く宿に帰って休んだ方がいいわよ」
ベティが再び愚行を犯そうとしたところを寸でのところでメリーが止める。あと少し彼女がベティの口を塞ぐのが遅れていたらと思うと、気が気でなかった彼女にとってサダウィンがベティの意図に気付かなかったのは僥倖であった。
一方のサダウィンはメリーの言葉通り、二人に別れの挨拶を済ませ、冒険者ギルドを後にした。後に残されたのは、安堵の表情を浮かべるメリーと、絶望の淵に叩き落とされたベティという実に対称的な二人の姿だった。
もちろんだが、この後ベティが休憩室でこってりと絞られたのは言うまでもなく、彼女にとっては踏んだり蹴ったりな末路だったのだが、サダウィンが旅立った数日後にやってきた二枚目の若い冒険者に言い寄る彼女の姿があり、それを見たメリーが「顔が良ければ何でもいいのか」と呆れる姿があったため、思っていたほどベティはたくましい性格をしているのかもしれない。
☆ ☆ ☆
冒険者ギルドを後にした翌日の早朝。サダウィンは街の門外にいた。今日は、ゴードンから受けた指名依頼を果たすべく、集合場所に指定されている門の外に向かったのだ。
そこは何もない広場になっており、複数の幌付きの荷馬車が駐車場のように並んでいる。どうやら、街から馬車を出す時に停車させておく定位置のような場所らしい。その中の一台の馬車に向かったサダウィンは、御者の中年男性に話し掛ける。
「あんたがヨルク・エトムートか?」
「そうだが、君が補充された冒険者かね?」
「まあ、そんなところだ」
男性は四十代中頃の鼻の下に髭を生やした中肉中背の体形をしており、極々一般的などこにでもいるおじさん然とした風貌をしていた。その物腰は柔らかく、気のいいおじさんに見えなくもないが、初めて視線を合わせた瞬間、こちらを値踏みするような目はまさに商人らしく鋭いものであり、やはりやり手の商人だということが窺えた。
簡単な自己紹介を済ませた後、本来この依頼を受けているはずの冒険者の姿がなかったため、サダウィンがヨルクに問い質すと、どうやらまだ集合時刻に余裕があり、彼が少しばかり早く来すぎてしまっただけだという答えが返ってきた。
それから待つこと十数分後、本来依頼を受けているであろう四人組の冒険者があくびをかみ殺してやってくる姿が見えた。サダウィンを見た瞬間、訝し気な表情を浮かべたがギルドから話を聞いていたようで、すぐに全員自己紹介をしてくる。
「俺はこのパーティーでリーダーをやっているゴリスだ。戦士をやっている」
「僕はヴァンといいます。剣士です。よろしく」
「ミネルバです。見ての通り、神官をやっています」
「サリィよ。魔法使いをやっているわ」
「サダウィンだ。剣士をやっている。よろしく頼む」
リーダーを名乗ったゴリスは、戦士らしく筋骨隆々なごつい体格に、それに負けないくらいのごつめの大剣をしょった武人タイプの冒険者だ。精悍な顔立ちに短髪という男というよりも漢という表現がよく似合う。
次に名乗ったのは、ヴァンという見た目優男な雰囲気を持った青年で、ゴリスと比べるとその体つきは見劣りするものの、決して戦えなさそうではなく、必要な部位に必要な筋肉が付いている細マッチョタイプの冒険者といった感じだ。ゴリスよりも長めの髪と、すらりとした体形は、どことなく若い娘にモテそうだが、本人の持つ雰囲気が遊んでそうな感じではないため、真面目な青年であることがよくわかる。
女性陣の一人である神官のミネルバは、柔和な笑みを浮かべた神聖な雰囲気な神官服に身を包んだ若い女性だ。彼女の最大の特徴として、神官服をこれでもかと押し上げる二つの膨らみは、まさに男が思い描く理想的な形と大きさをしており、はっきり言って素晴らしいの一言に尽きる。青い艶のある長髪と、左の目元にある泣きボクロがまた彼女の魅力を引き立てている。
最後に残った女性のサリィはローブに身を包んだ魔法使いで、手には木製の先端がとぐろを巻いたいかにもな杖を所持している。ミネルバと比べて、その胸部は自己主張するほどの大きさはないものの、その形はとても美しく、彼女のスレンダーな体形と相まって落ち着いた大人の女性の雰囲気を醸し出いしている。艶のある長髪と少しきつめの目元は、強気な印象を受けるが、一部の特殊な性癖を持つ男性からはとても人気が出そうである。
それぞれ、名前とパーティーでの役割を順番に話していったが、ここで魔法使いのサリィが自己紹介の後途端に機嫌が悪くなる。
「あたしたちじゃ力不足だからって呼ばれた補充の冒険者がこんな子供だなんて。ギルドは一体どういうつもりなのかしらね」
「おい、よさないかサリィ。お前も聞いていただろう? 初日にオーク三匹を単独で撃破し、その実力が認められて、わずか二日でGランクまで駆け上がった期待の新人だと」
「でも、どう見てもただの子供にしか見えないわよ。あたしはね、自分の目で見たものしか信用しないことにしてるの。どう見ても子供にしか見えない人間が実力者だなんて、とても信じられないわ」
リーダーのゴリスが窘めるも、彼の言葉もどこ吹く風とばかりに彼に反論するサリィ。サダウィンとしても、彼女の言い分はもっともであり、Gランクまで昇級したとはいえ、冒険者としての経験はほぼ皆無といっていい自分を認めるなどできないことは彼自身がよく理解していた。
しかしながら、これから十日以上行動を共にする相手である以上、できるだけ心証を良くしておきたいと、サリィの言葉に抗議することはせず、黙ってゴリスに任せる形を取った。
「仲間がすまない。だが、決して悪い奴ではないんだ。許してやってくれ」
「問題ない。彼女の言い分は理解できるし、俺としてもまだまだ経験不足の冒険者だということは変わらないのだからな。寧ろ、これからいろいろと冒険者について教えて欲しいくらいだ」
「そう言ってもらえると助かる。これから長旅になると思うが、よろしく頼む」
「こちらこそ、迷惑を掛けるかもしれないが、よろしくお願いする」
そう言葉を交わしながら、互いに握手をする。少しながら険悪な顔合わせとなってしまったが、ひとまず人が出揃ったということで、目的地のロギストボーデンに向けて出発する運びとなった。
今回の依頼の目的地であるロギストボーデンまでの道のりは、四つか五つの中小規模の村や町を経由しながらの旅路で、護衛の冒険者はその道中に現れたモンスターや盗賊などから依頼主を護るのが主な仕事だ。
護衛中は、男性陣は基本的に徒歩での護衛に徹し、女性陣は幌馬車の開いているスペースに陣取らせてもらい、何かあればすぐに飛び出せるように待機する形を取っている。
そんな布陣でしばらく進んでいたが、特にこれといって問題が起きることもなく、幾ばくかの休憩を挟みながらその日一日が終了する。
冒険者の野営の一つに交代で見張りをすることがあるが、これも揉めることなく順番が決まる。ちなみに見張りの順番はゴリス、サダウィン、ヴァン、ミネルバとサリィの二人という順番で、ぐっすりとはいかないまでもちゃんと睡眠もでき、見張り自体も問題なく行うことができた。
そんな状態が三日ほど続いたある日、ようやくというべきなのかは疑問だが、ここにきてようやくモンスターの群れに遭遇する。
この三日間何も起こらなかったために、サダウィン以外の四人とも張り切っており、すでにモンスターを迎え撃つ気満々である。ちなみに、モンスターはサダウィンも戦ったことがあるファングボアで、比較的対処しやすいモンスターだった。
だが、四人の戦いを見て、ギルドがなぜ補充要員を彼らに寄越したのかがよくわかる出来事が起こった。
「うおぉぉぉおおおお!」
「あ、ゴリスさん。待って、一人で突っ込まないで!」
「きゃあ」
「ちょっと、そんなとこにいたら危ないわよ?」
(なんだこれは、まるで噛み合っていない。動きがバラバラだ。本当にこいつらFランク冒険者なのか?)
そのあまりの連携の拙さに一瞬呆然としてしまうサダウィン。しばらく動かずにいたが、さすがにただぼーっと突っ立ているのは職務放棄であるため、彼らの邪魔にならないように彼らのターゲッティングから外れたファングボアを狩ることにする。
現れたファングボアの群れは全部で七匹で、その内の二匹をサダウィンが狩ったのだが、彼が二匹を狩る間四人が狩れたファングボアはサダウィンと同じたったの二匹だった。
それを見たサダウィンが加勢することで、なんとか倒すことができたが、このままでは先が思いやられると彼は内心でため息を吐くのだった。
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