青天の霹靂と何でもないジュンくんの1日

むーこ

青天の霹靂

『お前、最近女性タレントと遊んだこととかあるか?』


丸一日仕事が無いのを良いことにベッドと仲良しこよししていた矢先、突如マネージャーからかかってきた電話の内容にジュンは「何が起きた?」と困惑しつつここ数日の記憶を振り返った。


「最近は、あのー…柴崎百合と近藤梨々愛…」


『人気女優と人気読モか…お前どこで遊んだ?』


「お互いの家で…オンラインでエビテンリングの攻略手伝って貰ってました」


『ゲームかよ!そんなら別に良いよ』


「僕がカキアゲ城で苦しんでるうちに百合も梨々愛もネギリッドの戦祭りまで進んでて…」


『お前まだカキアゲ城で詰んでんのかよ!クソ序盤だな!?とりあえず女性と会うこととかあったら周りに気をつけろよ。お前目立つんだから』


「地肌からショッキングピンクですしね」


『ゲームじゃねえって!じゃあ仕事戻るから』


通話画面が消え、皿に盛られた2切れのカステラの写真が設定されたホーム画面をボンヤリと見つめながらジュンは「本当に何が起きた?」と首を傾げた。

男性ファッションモデルとして活躍しているジュンは芸能界において顔が広く、老若男女の隔て無く多くの同業者と交友関係を築いている。特に昨晩TVゲーム『エビテンリング』で遊んだ2人─若手女優の柴崎百合と読者モデルの近藤梨々愛は性別の隔てを越えた友人であり、食事に行く程には仲が良い。とはいえメディアにとっては男と女が一緒に歩く姿などカップル以外の何者とも捉えられないであろうことはわかっているので、会う時は現地集合からの現地解散を心がけている。

しかしここ半年程は2人ともエビテンリングの世界でしか会っていない。他の女性タレントとも撮影現場で軽い世間話しかしてこなかったハズなのに、何が問題になったのか。

神妙な表情で天井を見つめ考え込むジュンの視界に、突如スマホが飛び込んできた。


「ジュンくん、多分これじゃない?」


ジュンの隣でベッドと仲良しこよししていた恋人の盛重が、ジュンの眼前に自身のスマホを突き出していた。画面上には色黒の中年男性が強い口調で何やら語る動画が再生されている。画面下部に添えられた荒々しいフォントの字幕に、誰もが知るような有名俳優の名を混ぜて。


「ジュンくんこの人知ってる?」


「知らない」


「良かった。芸能関係の偉い人らしいんだけどさ、自分が関わってきたっていう芸能人の裏の顔とかを実名付きで暴露してんだよね。女遊びとかパパ活とか。嘘か本当か知らんけど」


「なるほどねー」


画面に映された男の強い語り口に圧倒されつつ、ジュンは盛重のスマホを勝手に操作してコメントを眺めた。暴露の標的となった芸能人への敵意に満ちた言葉が並び、本人のSNSも荒れているであろうことをジュンは想像した。暴露内容の真偽は不明だというのに。

今後は芸能人対する巷の見方がより一層厳しくなりそうな気がする。他の芸能関係者による暴露も増えてくるだろう。自分にもいつか火の粉が降りかかってくるかもしれない。波乱の予感に胸がざわつくジュンの頬にゴツゴツとした手が添えられた。


「ジュンくんはいつも通りにしてれば大丈夫だよ」


右目頭から鼻筋にかけてに赤黒い痣を持つ盛重の顔が優しい笑みを浮かべている。真っ直ぐにジュンを見つめる彼の瞳を見つめ返すと、ジュンの中でも不思議と「大丈夫かもしれない」という自信が湧いてきた。


「ジュンくんがバレて困るのは個人情報とおケツが敏感なことぐらいでしょ」


「それは余計…」


言い返しきる前に、ジュンの口唇に盛重の口唇が重ねられた。口唇を噛まれ吸い付かれ舌を絡められる度、ジュンの思考が溶けてこれまでの不安やらがどうでも良くなっていく。そうして火照った身体を冷ます為、ジュンは着ていたトレーナーを脱ぎ捨て白い肌を露わにした。

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