#021 特別作戦傭兵“連隊”

 粛清しゅくせいを始めて30分が経過したとき、アルトリアは骨伝導無線で「撃ち方、止め!」と指示を出した。


 その瞬間、銃声が鳴り止み演習場内が静かになった。


「ううぅ・・・」

「ア、ア、ア・・・」

「・・・」


 演習場内では、両手両脚を失った者や全魔力を戦闘に使い廃人と化した者達が溢れていた。そんな中、アルトリアは部員たちに「重傷者から救護しろ、誰も死なせるわけにはいかない。今回までの数々の黒幕を突き止めるためだ」と骨伝導無線で指示を出した。


 こうして臨時で編成されそのまま救助隊になったのは、アルトリアが2年生になって初めて勧誘活動をした結果集まった故に特別傭兵作戦分隊に入隊したばかりの新入部員たちだ。


 彼女達の正式部隊名はまだ仮称かしょうだが、特別傭兵作戦分隊所属衛生部隊と呼ぶことにしている。


「こっちに2人来て!」


「軽症者だよ! それよりも、こっちに!」


「男なら、一々悲鳴を上げない! 我慢しろ!」

「――グアァァァァ!」


 幸い模擬戦形式にしていたので実弾が摘出される事は無かったが、今回の件で3年生のエリート達20人は大人しくなると同時にアルトリア・ラーミスや特別作戦傭兵分隊S,M,O,S,の部員達を恐れるようになった。


++++++++


 十二月にもなると学院生たちの制服も完全に冬服になったが、部活動だけはそれまでに変化があった。水泳部は廃止されて水泳サークルへと成り下がると同時に、特別作戦傭兵分隊の下部組織に組み込まれるようになった。魔弓部は学院内対抗戦で苦戦を強いられてしまったという理由で特別顧問部という謎称号と同時に、特別作戦傭兵分隊と攻防同盟を確立した。この同盟はこの国が兵士だけでは抗えられなくなった際に攻防同盟の両部活が支援という形で兵士達の戦闘に介入するという物だ。


 つまり、もっと簡単に言えば現代で言う所の日米同盟――片方が戦争状態になった際、同盟という立場からレンドリースや義勇軍派遣が出来るという所だ。


 話を戻して12月までにあった変化は、特別作戦傭兵分隊が特別作戦傭兵“連隊”に変更になった事だろう。また、連隊と言う単位は所属している兵士の人数が、500から5000人程いる軍隊の単位だ。アルトリア・ラーミスが2年生に進学した時点でなんと驚異の4500人が所属していた。そして、現在の非戦闘部員数は4480人であり衛生部隊を除くと4460人いる。


 余談だが、3年生エリート軍団を陰で操っていた黒幕は捜索したが見つからなかった――いや、見つけた直前に学院内でボヤ騒ぎが起きた事で取り逃がしてしまった。


 さて、2年生になった事で変化した事は部活だけではない。アルトリア・ラーミス自身も変化していた。現在の特別作戦傭兵連隊についてだが、現在は歩兵(小銃カトリーナ隊・狙撃アルトリア隊・偵察ヤフォーク隊・通信リクス分隊・ETC,)という構成だが、なんと榴弾砲が作れるようになってから大幅に変わろうとしていた。


 最初に一五五ミリ榴弾砲FH70七五式自走榴弾砲一五五|粍《ミリ自走榴弾砲》による野戦特科部隊を組織した後で今後、もしもの際に制空権を奪還できるように早い内から八七式自走対空高射機関砲による高射特科部隊を編成した。


 これらを既存の歩兵部隊に随伴ずいはんさせると同時に行ったのは、機甲科戦車部隊の発足だ。初期型として制作したのはM1A1――別称エイブラムス、七四式戦車などの日本やアメリカで使用されていた戦車たちだ。


「――あの~、これらは一体・・・?」


 そう聞いて来たのは新入部員のリリカ・ベロートだ、彼女は整理整頓がずば抜けて高いためこの春より整備員として所属している。さらに、頭脳も化け物と呼べるような優秀さである。


「戦車と言って、歩兵部隊の盾や支援するための戦闘車両だよ。 キミにはこの車両達の世話を頼みたい」


「は、はい。 ん?――え⁉」


 アルトリアの言葉を聞いていたリリカは二つ返事をしそうになって、恐悦きょうえつしだした。


「嫌かな? 君の意見を最優先に聞くが・・・?」

「い、いえ! 滅相もない言葉で、感無量でしゅ!」


 あ、噛んだ・・・。まぁ、そこがギャップ萌えという場所だよなぁ。


「そ、そうか。じゃあ、明日にでも頼めるかな? 資料とか燃料などはもう有るから」

「は、はい!喜んで‼」


 リリカはそう言うと飛ぶようにその場を離れていった、その後ろ姿を「やれやれ・・・、今年の新入部員はクセが凄いな・・・」と半分呆れながら見ていた。


++++++++


 一月は学院の冬休みと春休み前のテストがほぼ同時に行われる楽しくも悲しくもなる季節だ、一部の生徒にとっては・・・。


 その点、特別作戦傭兵連隊にはC+以上の成績でないと不認可という規則はない。他の部活動にはあるらしいが、ここ――特別作戦傭兵連隊と魔弓部だけは学院長のお墨付きもあって免除つまり、C+より下の成績であっても所属を許すという事になって居る。


 当然、部長であるアルトリアはSSS+という非常に高い成績を誇っていたため問題にならなかったが、リクスやヤフォーク達はC-である為に冬休みから特別作戦傭兵連隊認可の特別勉強会という物が始まった。


 内容は、各々よろしくない教科をカトリーナやリクス達が教師面を披露するという物だ。もちろん、俺も魔法基礎と魔法戦闘術の教鞭きょうべんに就いた。


 特別作戦傭兵連隊認可の特別勉強会が二月の初めごろに終わり、本番が来ると特別作戦傭兵連隊の部員はみんなC+という壁を乗り越えて大半がA+を叩き出した。


「「「「――やったぁぁっぁあぁぁ!」」」」


「上々だな、よし」


 アルトリアはもちろん、カトリーナやリクス達もSSS+を出していた。


 その日の夕刻、演習場内に設けた壇上に上がり、春休み前のテストを通過した事を祝う祝賀会が行われた。

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