ゲストが増える週末パーティー
「それでですね!! 僕とその金髪の女の子が聞く耳を持たない柔道ゴリラにいじめられていたらですね! お宅の息子さんが颯爽と現れたんですよ!」
「まぁ、そんなことが!!」
「…………」
コレは、何の罰ゲームだ?
我が家のリビングで、本人の前で、親にその活躍を赤裸々に語られるというこの現状は!
「そしてこう言ったんですよ!『手を離せ。あなたは……もう、喋るな』……って!!」
「キャー! 何それ超カッコイイ!!」
母親の『超カッコイイ』に僕がダメージを受けていると、小太郎がまだまだ続ける……というか、ますます調子づいていく。
「そこでブチギレるゴリラ! そんなゴリラにアマツくんはクールに言い捨てた!『まったく……やれやれだ……!』って!!」
「あー、分かるー! この子そういうこと言うのよー!」
ごめんなさい……もう許してください……もう、限界です。
「小太郎……そろそろ本題に入ってくれ……でないと、僕は部屋に戻って、一人で……泣くぞ」
既に半泣きになっているが、僕は何とか小太郎に促した。
「わ、分かった、残念だが、アマツの活躍劇はまた今度にしておこう」
僕のただならぬ様子を見て、同い年の男子高校生の小太郎は、さすがに少し悪びれてそう言った。
「えぇ……もっと聞きたかったのに」
だが年頃の男子の気持ちなぞ分からない母さんは……いや、コレは分かった上で言ってるな。
「いいから。ホラ、小太郎」
「うん。えーと、ですね。月子さん」
小太郎が気を取り直すようにごほん、と咳払いをする。
「あら、何か若い子に月子さんって呼ばれるのって新鮮。大体博士か先生って呼ばれるから」
母さんは実に愉快そうだ。
「実は今回、月子さんに知恵を借りたいと言うか……お尋ねしたいことがございまして」
「あら、何かしら」
「今した話の中で……金髪の女の子が出てきましたよね。僕を庇ってゴリラにいじめられた」
「ええ」
「この件のあと、僕と彼女とアマツくんは友達になったんです」
「あら、同性の友達だけじゃなく異性の友達まで!? やるじゃない天ちゃん! でもハナちゃんが何て言うかしらね!」
さっきまで小太郎としていた話のせいもあり、母さんの言葉がぐさっと胸に刺さる。
そうだよね、やっぱり母さんですら、まずそう思うよね。当人でありながら、そう思えなかった僕は馬鹿だったんですね。
本当に、なんでそういう思考回路に至らなかったんだろう?
僕なんて、今ハナに異性の友人が出来たって想像しただけで心がささくれ立つのに。
……僕は、本当に身勝手だな。
「正にそのハナさんのことなんです。でないと、アマツがこんなに黙って座り続けることはない、と推察します」
「物凄く納得が言ったわ。この子少しでも恥ずかしいことがあると、すぐ部屋に逃げちゃうんだもん」
なおも母さんの言葉が追撃してくる。
「その金髪少女が……何故か接点のないはずのハナさんを知っていたんです。そしてアマツに『相変わらずニブいし、尻に敷かれてるのね。テンちゃん』って言ったんですよ」
「事実ね」
母さん。短い言葉の方が切れ味ってあるんだね。勉強になったよ。
「そこで割とどうでもよさげだったアマツが、ハナさんが関わっていると知った途端、目の色を変えまして」
「目に浮かぶわ」
……そんなに?
「アマツが『なんでお前がハナを知ってるんだよ』って不機嫌に尋ねるも、彼女は答えない」
小太郎……それ、僕のモノマネか?
「似てるわね! さすが“ソウルメイト”」
……マジかよ。
「そして彼女は『当ててみなさい、迷探偵さん。ヒントは私があなた達の前で口にした言葉よ』と挑戦状を突きつけてきたワケです」
「なるほど。でもこの子ニブいからね」
……そんなに? 親から見てもニブい?
「ええ、そして、僕達はそのヒントに辿り着いたんです。それが神乃ヶ原月子さん。あなたです」
「……は?」
母さんが興味深そうに目を見開く。
「柔道場でゴリラに髪を掴まれた時、彼女はこう言ったんです。『私は弱い自分を捨てて、変わると誓ったのです。神乃ヶ原月子のように、自分を貫く女であることを!』って」
「……ふえ」
母さん。「ふえ」はやめて。
「彼女は、あなたを尊敬してるような口振りだったんです。もしかしたら面識が?」
「その子の名前は?」
「我が愛しの淑女……その名は『神原天乃』」
「ふ……ふ、ふふふ」
母さんがカップを置いて、笑いだした。
「あっはっはっはっは!」
今度は声を上げて笑い出した。まるで悪役だ!
「天ちゃん」
「……っ。はい!」
「その天乃ちゃんを、週末のパーティーに誘いなさい。その子のお母さんも一緒にどうぞって伝えて」
「……へ? パーティー?」
母さんの言ってることが分からなくて、僕は間抜けな声を出した。
そもそも、ただ神乃ヶ原家の夕食にハナを誘っただけの話だったのに、いつの間にパーティーになったんだ?
「そうよ。息子が友達を作ったのよ。パーティーくらいするわよ」
「…………」
母さんの顔にも声にも、茶化すような色は全く無く、僕は少し気恥ずかしくも、嬉しい気持ちになった。
「ていうか、あたしが手紙を書くわ。それを明日その子に渡しなさい。それで週末には答えが分かるわ」
「……わ、分かった」
実に楽しそうに微笑む母さんの謎のオーラに気押されながらも、僕は頷いた。
「あ、あの……!」
同じように気押されていた小太郎が声を上げる。
「何?」
「僕もそのパーティーに参加したいのですが」
ちゃっかりしてる小太郎だった。
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