第32話 嫉妬と最強勇者

 翌朝――


「おはようございます、十六夜さん!」


 隼人が下駄箱で靴を履き替えていると、竜児が元気に挨拶してくる。


「竜児、学校が終わったあと、時間空いてるか?」


「もちろんです、十六夜さん! 今日も鍛えてくれるんですか?」


「いや、お前に会わせたい人たちがいてな」


「俺に会わせたい……ですか?」


「ああ、詳しくはその時に説明する」


 そんな会話を交わしながら、二人は教室へと歩いていく。

 今日は土曜日なので学校は午前中で終わり。

 昼休みもないので、沙織の手作り弁当もなしだ。


 隼人が教室に入ってくると、女生徒たちが意味深な視線を送ってくるも声をかけてくることはない。一緒にいる竜児が女避けの役割を果たしてくれているようだ。

 若干竜児が絡んでくるのがうざったいが、それ以外は快適に四限目まで過ごし、帰りのホームルームを終えると、竜児を連れてアリスとの待ち合わせ場所に向かう。


 ◆


 待ち合わせ場所の駐車場にて――


「お待たせしました、アリスさん」


「こんにちは、隼人。……そちらの少年は?」


 隼人が挨拶すると、少々頬を赤らめながらアリスが返事を返す。

 しかし、隼人の後ろに立つ竜児を見ると怪訝そうな表情を浮かべる。


「彼は竜崎竜児といって、ぼくと一緒にモンスター退治をしている仲間です。修行を始めたばかりでまだまだ弱いですが、ゴブリン――下級エネミーくらいなら倒せます」


「なるほど、隼人の仲間ですか。ならば歓迎しましょう」


「えっと、十六夜さん……こちらのべっぴんさんは?」


「竜児、彼女はアリスさんといって、昨日他のダンジョンで出会ったんだ。何でもぼくたちと同じようにモンスターを討伐する組織に所属しているらしい」


「え!? 隼人さん以外にもそんな存在が?」


「ああ、とりあえず詳しいことは移動しながら説明する」


 そう言って、隼人はアリスとともに車へと乗り込む。

 それに倣い、竜児も後ろの席へと乗り込んだ。アリスの美貌に惚れたのか、ミラー越しに彼女の顔を見つめているが、アリスの方はあまり竜児に興味がないのか、それよりも隼人の方をチラチラと見ている。


 車を走らせること少し――


「なるほど、まさか俺が帰ったあとにそんなことがあったんですね……」


 車の中で、隼人とアリスから昨日の出来事を聞いた竜児。

 アリスたちの組織はもちろん、彼女たちが使う現代兵器を改造した武器などにも興味津々な様子だ。


「着きました。さっそく司令のもとへ向かいましょう」


 昨日の屋敷の前に到着すると、アリスはそう言って車を降りる。


「うおっ! でっかい屋敷!」


 車を降りたところで、屋敷を見上げ興奮した声を上げる竜児。

 そんな竜児に苦笑しながら、隼人はアリスに続き屋敷へと入る。


「待っていたわ、隼人さん。ところでそちらの方は……?」


 昨日と同じ最上階の奥の部屋へと入ると、司令官である早苗が挨拶してくる。

 部屋には可奈と唯も待機しており、竜児を不思議そうな目で見ている。

 とりあえず、先ほどと同じように竜児の紹介を軽く済ませる隼人。

 竜児が隼人とともに戦う仲間とわかると、早苗たちは歓迎ムードになった。


「……隼人さんの仲間、心強い……」


「ねぇねぇ! 竜児くんはどんな闘い方をするの?」


 可奈が感想を述べると、唯がそんな質問を竜児にぶつける。


「お、俺は十六夜さんにもらった武装を使って格闘術を主体に戦います! でも、十六夜さんと比べたら雑魚なのでそこまで期待しないでください……!」


 期待の眼差しを向けられて緊張しているのか、竜児は少々焦った様子でそんなふうに返す。

 美少女たちに期待されてもいい気にならず、自分の立ち位置を明らかにするくらいには、竜児も謙虚に成長できているのだな……と、隼人は内心感心するのであった。


「それでは、これからの我々の共闘の仕方について、話し合いを始めるとしましょう」


 そう言って、部屋にある大きな机へと移動を始める早苗。

 勧められた席に隼人が座ると、その隣にアリスが座ってくる。


「あらあら……」


 アリスを見て、朗らかな笑みを浮かべる早苗。

 可奈と唯は「……リーダー、抜け駆け……」「む〜!」などと、頬を膨らませている。


「(おいおいおいおいおいおい……! ここでも隼人さんモテモテかよ!)」


 などと竜児が羨ましそうに、小声で心の声を漏らす。


 皆の反応に、隼人だけは「……??」と不思議そうな表情を浮かべているのであった。

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