第27話 天然タラシを発揮する最強勇者

 その日の夕刻――


「ただいま」


「おかえりなさい、隼人くん♪」


 学校が終わり、家へと帰ってきた隼人を、キッチンで夕食の支度をしていた美雪が優しい声で出迎える。


「ただいま、母さん。いい匂いだね」


 キッチンから漂ってくる夕食の匂いに空腹感を覚える隼人。

 どうやら今日の夕食はカレーのようだ。

 手洗いを済ませ、夕食の時間まで宿題でもしようと部屋に行くことにする……のだが――


「隼人くん、ちょっといい?」


「……少し聞きたいことがあるんだけど」


 先に帰ってきていた春菜と夏実が、そんな声とともに二階から降りてきた。


「姉さんに夏実まで、どうしたの……?」


 不思議そうに問いかけながら、とりあえずソファーに座る隼人。

 すると二人も向かいのソファーに座り、最初に春菜がこんな質問をしてくる。


「隼人くん、この前、下級生の子に告白されたけど断ったって言ってたよね?」


 ……と。


「ん? それならこの前も言ったとおり断ったよ……?」


 いったいどうしたのだろうか、と不思議に思いつつも隼人は春菜にそう返す。


「本当に? 今朝、兄さ――隼人さんが沙織にアクセサリーをプレゼントしたって噂になってるんだけど? 沙織も嬉しそうにピアスを眺めてたし……」


 隼人の質問に、今度は夏実が質問を重ねてくる。

 どうやら沙織とクラスが一緒のようだ。


「あらあら、それは聞き捨てならないわね?」


 春菜と夏実の話を聞いていたのか、そんな言葉とともに美雪がキッチンから歩いてくる。


 なぜ三人がそのようなことを気にするのだろうか……。

 隼人はそんな疑問を抱きながらも、ことの経緯を説明する。


「沙織さんからの告白は断ったんだけど、そのあとお弁当を作ってきてくれるようになって、ここ数日間ごちそうになってたんだ。もらってるだけじゃ悪いから、お礼にピアスをプレゼントしたんだ」


 と――。


「隼人くん……」


「それじゃあ、告白を断った意味ないじゃない……」


 隼人の言葉を聞き、春菜と夏実が呆れたような表情を浮かべる。

 二人の言葉に、隼人は「……??」と不思議そうに首を傾げる。


 そんな彼の反応に、美雪も「あらあら、隼人くんったら思った以上に天然だったのね……」と少々困り顔だ。


(なんでみんなしてそんな反応をするんだろうか……)


 ここまで来ても状況を理解できない隼人はそんな感想を抱きつつも、(もしかしたら……)とこんな言葉を三人にかける。


「よくわからないけど、もしアクセサリーが欲しいなら姉さんたちにもプレゼントしようか?」


 ……と。


「え? ほんとに、隼人くん?」


「あらあら、そんな風に言ってもらえるなんて思ってなかったわ♪」


 意外そうな反応をしつつも、春菜と美雪が嬉しそうな表情を浮かべる。

 夏実も、「は、隼人さんがくれると言うなら、受け取ってもいいけど……」などとブツブツ呟きながら少々頬をピンクに染めている。


「じゃあ、三人の分も作るから出来上がったら今度渡すね」


「え? あれって、兄さ――隼人さんの手作りだったの? 遠くから見ただけだけど、すごく高そうに見えたのに……」


 隼人の言葉を聞き、驚いたような表情を浮かべる夏実。

 彼女の目から見ても、沙織にプレゼントしたピアスは高級アクセサリーのように感じたようだ。

 彼女の言葉を聞き、隼人は(他の女性から見てもそう感じるなら良い出来だったんだな)と、少し安心感を抱きつつ、部屋へと戻って行く。


「隼人くん、本当に天然なんだね……」


「あんな風に詰められても、呆気らかんとしてるものねぇ……」


 二階へと上がっていく隼人を見つめながら、少々呆れた様子の春菜と美雪。

 まさか自分たちの思いに気付くどころか、アクセサリーをプレゼントすればいいなどという発想になるんなんて……どこまで天然なのだろうかと。


「兄さんのタラシ……」


 小声で、夏実までそんな呟きをするのであった。

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