第十二話 次元錬金
「三大欲求犠牲にする奴なんて聞いたこと無いし、むしろ不気味で目障りだ。だから若い芽は摘んでおかないとな」
そう言い終えると、妖は猛スピードでこちらへ走って来る。
だが、白洲さんは同じスピードで妖へと向かって行った。
妖は手を伸ばし、白洲さんの右腕に触れようとする。
「白洲さん! そいつの手に触れたら駄目です!」
すると寸でのところで、白洲さんは回避した。
「チッ、余計なこと言いやがって」
妖はイライラを募らせ、頭をがりがりと掻いた。
「ふう、どうやら手っ取り早く終わらせる必要があるようですね」
白洲さんは胸ポケットから、小さなナイフを取り出した。
「はっ、そんなひょろっこいナイフなんかで俺を殺せるのか?」
「いえいえ、これで殺すのではありませんよ。ただ、媒体になってもらうだけです」
すると次の瞬間、空間自体がびりびりと振動し始めた。
その振動は白洲さんから発せられているようだった。
先ほどまでのインテリ感とはうって変わって、今は途轍もない威圧感だ。
「まさかお前使えるのか!?」
妖は驚いた表情を見せつつも、嬉しそうな楽し気な雰囲気を醸し出していた。
「……俺はあの男がB級以上の実力はあると見込んでいた」
仁一君はぽつりと言葉を漏らした。
そう、公式の錬金術師になると、その実力に応じてランク付けされるのだ。
特例のS級を除き、E級からA級までが存在する。
もちろんA級がトップだ。
それぞれのランクに昇格、維持するためには大まかな規定がされてある。
そのうちの一つが、
「もしあの男があの技を使うことができるのなら……!」
その技はA級に必須にして最高峰の錬金術。
自身に多大なる負荷をかけ、普段の錬金術の数倍の力を引き出すという。
「あの男はA級錬金術師だ」
白洲さんはナイフを右手に持ち、空を切り突き上げた。
「
直後空気が硬直した。
「
時が止まった。
いや、正確にはただの錯覚かもしれない。
だが明らかに白洲さんとそれ以外の人たちの時間の流れが違うのは感じられた。
意識と言うか思考と言うか、そういったものがゆっくりに進んでいく。
その間、白洲さんは妖に向かって歩いて行き、ナイフをふっと一振り。
そこで次元錬金が解除された。
元の時間の流れに戻るとき、一瞬頭がバグを起こしたかのようになる。
詳しくは言い表せないが、思考と体が嚙み合わないような感覚だ。
一方、妖はと言うと
「う、ぐふあ」
首から血を流し、口から血を垂らしながら地面に倒れた。
よく見ると胸あたりからも出血しており、地面を赤く染めていった。
白洲さんは手拭きを取り出すと、ナイフに付着した血を拭き取った。
「さあ、終わりましたし戻りましょうか。もちろん、帰りは手助けしませんよ」
僕と仁一君は白洲さんの方に歩いて行く。
「ありがとうございました」
僕は頭を下げる。
「いえ、あいつは本来試験会場にいてはいけない存在。それにあなたたちの言っていた仕掛けですが、あれも機能していませんでした」
「!?」
どういうことだ?
確かにあの入り口には妖がいた。
その妖に犠牲になったと思われる人たちもたくさんいた。
でも仕掛けは働いていなかった。
と言う事は、
「ええ、おおかたあの妖が引き連れてきたのでしょう。彼はかなり高位に位置する妖でしたから」
つまり入り口にいた妖はあの白髪頭の妖が連れてきた。
でも何のために?
「あいつ、ストックがどうたら言ってたような……」
仁一君は頭をひねらせる。
ストック、意味の分からない行動、言動。
あいつは何をしに来たんだ?
「殺しても死なねえ妖なんて初めて戦った。触れるのも禁止とか、かなりのクソゲーだったな」
殺しても死なない、触れると錬金術によって人体を破壊される。
まさか。
ありえないだろ、だってそれならあいつは!
「お前強いなあ、ご丁寧に二回も殺しやがって」
白洲さんの背後から奴が現れた。
「なっ……!」
妖は白洲さんの腹を、力一杯殴りつけた。
それほど強いパンチでは無かった。
だが奴の錬金術は……。
「ぐう、うう」
白洲さんは血を吐き出し、血まみれになっていた。
たった一瞬で、優位にあったA級の白洲さんを瀕死の状態にしたのだ。
「うん、お前ら良いな。合格だよ、ここで俺のストックにするのはもったいない」
奴は流暢に話し始めた。
「俺はさあ、殺した人間の寿命を奪い取れんの。そんで不死身もどきみたいなことしたりさあ。一番面白いのは、自分以外の奴に寿命与えると体が拒絶反応起こして崩壊すんだよ。最高だろ!?」
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