名前


「そんなことより、アイツはどこだ」




女は私に向かって命令口調で聞いてくる。


少し怖い。




「アイツって、師匠ですか?」


「あん?それ以外住んでるヤツいるのか?」




ん、ちょっと嫌な人です。


腕を組んで高慢ちきです。


この家には拳銃があって、このアトリエの中にもあったりします。




「いえ、居ないですけど……


人に怖っいって言われません?」




雑に話しながら机の前まで移動しました。


引き出しを開けて、銃を掴んで打つだけ。




「余計なお世話だ!それより奴は」


「さあ、統括会の依頼をほっぽり出してどっか行っちゃいました」




後ろ手に銃に触れた時、女はマヌケな声を上げました。




「統括会の依頼を、ほっぽり出したァ!?」


「はい、コレを押し付けて」




もしかして、この人の素はコッチらしい。


無理していると分かれば可愛いものだ。


私は銃ではなく、師匠から押し付けられた本を差し出しました。




女は受け取って、大きなため息を吐くと、




「……よし、今日ここ泊まってくわ。いいわね?」




と、ソワソワしながら言いました。


この短時間で段々分かってきました。




「別に構いませんけど、どうしてでしょうか」


「あ、アイツ、私の顔見ると逃げ出すもの、なら待ち伏せた方が良いでしょ」




そっぽを向いて頬を描きながらそれっぽいことを言います。


師匠に会いに来てたんですね。


もしかしたら、初めての来訪者じゃなかったのかも知れません。




「……懲らしめるというのなら協力しますよ」




私が冗談めかしていえば、女はニヒルに笑います。




「ハハ、流石アイツの弟子だ」


「?あ、そうだ。挨拶がまだでしたね、ティア・愛音あいら・シャドールです」


「私はうお座の魔法使い、二ーヴァ・スカインだ。よろしくな。ところで、ティア。お前ジャパニーズか?」


「え、はい。師匠に拾われたというか、拉致られたというかで名前も変わってます」


「……合法だよな?」




余計な事を話しました。


無かったことにして、お茶の準備に取り掛かります。


師匠は言っていました、御客人にはおもてなしを。




「さ、お茶の準備しますね、リビングへどうぞ」


「おい、ちょっとまて!え、アイツマジで、やったの?おい!……アイツもアイツだが、ティアもだな。……厄介事にならんといいが」

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