第19話 ここにいるから。離さないで。




 少しずつ激しくなっていく呼吸の間にお互いの両腕で抱きしめ合う。


 言われなくたって分かっている。左の膨らみから伝わってくる由実の鼓動。先日寂しそうに話していた時とはもう違う。今でははっきりとその力強さが伝わってくる。


「由実……かわいいよ」


「祐樹君……、本当に私で……いいの? こんなにすぐに求めちゃって……私……」


 指先に感じる固くなった蕾は、「まだ女の子でありたい、生きていたい」というエネルギーが彼女に残っている証だ。


 愛する人と一つになりたい。自らの子孫を残したいという女の子としての本能は残っているいる。これから元に戻していけばいいのだ。いまはその気持ちで十分だ。


「俺は、由実が好きなんだ。どんな姿でも、由実にまた会えたことが嬉しい」


「うん……、私も同じ……。もう会えないって思ったときがあ一番辛かった……。だから、今はこんな状態だけど、気持ちは元気になっているから」


 由実の顎が上を向き、白い喉元をさらけ出す。


 抑えたくても出てきてしまう嗚咽を漏らす彼女を力一杯抱きしめた。いつの間にか彼女の体から力が抜けている。


「だ、大丈夫か?」


 体力が落ちている由実には少々強すぎる刺激を与えてしまったかもしれない。


 ぐったりと横たわってしまった由実だけど、息もしているし鼓動もしっかりしている。頭の中がパンクしてしまったようだ。


「由実、しっかりしてくれ」


「もぉ……。強引なんだから……。でも、よかった……。そんなに心配しなくても大丈夫。苦しい時はキッチンで倒れていたなんて時もあったから」


 俺の顔がよほど酷かったのかもしれない。由実は文句を言いながらも微笑んでくれた。


「笑って話せるようなことじゃないだろそれ。お医者さんは知ってるのか?」


 ツインの部屋だったけど、一つのベッドで体を寄せ合いながら明かりを消す。


「うん。それは話したら、落ち着けるお薬をくれた。今日も持ってるよ。でも、だって……、自分で言うのも変だけど恥ずかしかったんだから……」


「かわいかったよ」


「そのセリフ反則……」


 俺に枕を押しつけたのは照れ隠しだったようだ。


 本当なら、10年前に伝えておくべき言葉だったのだと思う。


 もし、あの偶然の通知がなかったとしたら、俺は二度とこの手に取り戻すことはできなかったのだと思うと、言えることは隠さずに伝えておきたい。


「祐樹君……。私ね、さっき言ったこと訂正する。帰ってきてよかった。こんな私でも、待っていてくれた人がいたんだもん。間違ってなかったんだね」


「もう、離さないからな」


「うん。ここにいるよ私……」


 突然の企画だったし、決して豪華な旅ではなかったけれど、俺たち二人にとっては満足な夜だった。

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