第3話 難しい判断は一人ではないから…




「波江君はどっちがいいの?」


「佐藤はもう決めたのか?」


「私? そうだなぁ、帰りたいようなそうじゃないような……。早く決めるようには言われてるんだけどね」


 そう言って机に頬杖をついているのが、この補習校でのクラスメイトになる佐藤さとう由実ゆみだった。


 彼女との出会いは2年前。中学1年へ変わる時に編入してきた。


 実を言えば、彼女は珍しい方だ。


 何故なら、このクラスの女子の場合、学校に上がる前や、小学校でも低学年から渡米してきている家族が多かったため、こちらの生活にすっかり慣れているメンバーが多かった。


 中学生に進学するタイミングで親の都合での転勤となると、家族は日本に残る選択をすることも少なくない。


 だから、先の受験の話では、女性陣は大半が「残る派」の中にあって、悩んでいる少数派の一人でもある。


 それも彼女には2歳年下の妹もいる。だから由実の一存だけで決められないという事情もあるのだろう。


「俺かぁ……。もしかしたら帰るかもなぁ」


「そうなんだ……」


 彼女の寂しそうな顔を見ると、その考えもすぐに揺らいでしまいそうなくらい、まだ考えは漠然としているに過ぎない。


 来週から始まる三者面談までにはある程度方針を決めなければならないにもかかわらずだ。


「こんなのさぁ、中3には重すぎるよなぁ」


「そうだよ。そんなことだったら、最初から来なかったと思う」


 由実も頬を膨らませながら賛同する。


 俺と彼女は渡米前は同じ市に住んでいたことが偶然分かってから、同郷のよしみということもあってか、女子だけでなく男子でも他のクラスメイトと比べ話が合いやすかったということもあるだろう。


 お世辞にも美人系というわけでもなく、大柄な現地のティーンエイジャーに比べても150センチ半ばというのは小柄だ。


 少しふっくらしているどちらかと言えばチャーミングという方がしっくりくる。服装もデニムパンツにシャツ、スニーカーという感じで、年頃のお洒落というより、過剰な男女意識なく気楽につき合えるような雰囲気。


 俺はこの時間でよく人懐っこい笑顔を見ているものの、やはりふだんの生活ではまだ苦労も絶えないらしい。


 今や小学生の頃から携帯電話を持っている時代。


 しかし当時の、まだ誰もが1台持てる時代にもまだまだ早い。スマートフォンなども見る影がなかった時代の話だ。こういう休み時間のアナログな情報共有の重要性は今日こんにちとは比較にならない。


 1日の授業が終わり、それぞれがまた現実に帰って行く。


 これが日本なら……、と何度思ったことか。時間はいくらでも工面できるし、帰り道に寄り道して遊んでいくことだって(本来は駄目なんだろうけれど)できる。


「じゃぁ、また来週ね」


「うん、じゃぁな」


 いつもどおりの放課後、校舎から出てそれぞれの家族が待っている車に向かって散っていく。


 これが毎週の光景だった。

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