あの日の素直を追いかけて

小林汐希

第1話 空港への出迎えにて




「さて、出かけるか。出発時刻の連絡も定時だっていうし」


 壁に掛かっている時計を見ると、もうすぐ昼になるところ。


 今は便利な時代だ。飛行機の便名を検索エンジンに入力すると、ほぼリアルタイムでの位置情報が分かる。そのデータを見ていても順調なフライトのようだ。


 俺はテレビを消して、ハンガーにかかっていたジャケットを手に部屋を出た。


 アパートの階段を下りて駐車場に向かいながら空を見上げると、青空の所々に白い雲が浮かぶ程度の晴天。この天気ならば上空から下がよく見えるだろう。


 停めてあった軽自動車に乗り込んでエンジンをかける。


 この街で車がないというのも少々不便だけれど、男の一人暮らしに不必要に大きな車も要らない。この車も中古車で見つけたものだけど、一度整備をきちんとしてもらったから、不具合も起こしていない。


 今の軽自動車は、バイパスや高速を走っていても無理な運転をしなければ十分に流せるし、ついでに税金を含めた維持費も安いとなればこれで十分だ。


 馴染みのガソリンスタンドに寄ると、セルフの台から自分で給油を始めた。


「こんにちは。これからお出かけですか?」


 いつもこのスタンドで入れているから、店員ともすっかり顔馴染みだ。


「ちょっと昔の知り合いの出迎えにね。この先高速を走るからタイヤの空気みておいてもらえる?」


「おやすいご用です」


 彼は俺がガソリンを入れている間に手際よく点検をしてくれた。


「ちょっと高めにしてあります。気をつけていってらっしゃい」


「ありがとう」


 礼を言ってスタンドを出る。


 カーナビの設定は成田空港の到着ロビー。


 大体のコースは頭に入っているからわざわざ設定するまでもないけれど、リアルタイムで欲しいのが途中の交通情報だ。事故渋滞に巻き込まれてしまったりすると到着時間にもズレが出る。


 その遅れの事も何とかして伝えてあげないと、他に出迎えがいないというなら余計に心配してしまうだろう。


 幸いにも、この昼間であればほとんど渋滞も収まっていて、ナビゲーションの到着予定時刻を見ると、約束の時間の1時間ほど前になっている。駐車場からの移動時間も考えればちょうどいい。


 高速道路に合流させて、車線とスピードを安定させると少し落ち着く余裕も出る。


「佐藤か……。顔を見るのはもう何年ぶりなんだろう……。10年以上経つのか……。変わっていなければいいんだけど。あんまり変貌していると見分けられないからな……」



 俺、波江なみえ祐樹ゆうきがなぜそんな空港まで車を飛ばしているかというと、ある一人の旧友を迎えに行くためだった。

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