第37話 土方・12
「では、戻りましょうか。副長は今夜は熱が出ますから、覚悟しておいてください……斎藤さん」
「はい?」
「旅の疲れがある上に、あなたも怪我をして大変でしょうけど、副長の看病をしてやって下さい」
「はい!」
「帰り道、足が結構辛いでしょう。島田さんにおぶさって帰って下さい。副長は……」
「あ、俺、おぶってやるぜぃ」
原田が陽気に声を出した。「いやぁ、いいもん見せてもらったぜ、斎藤の泣き顔なんてよ。俺、ちょびっと貰い泣きしちまった!」
「俺ぁ腕の怪我なんだから、歩けるって言っただろ!」
「…………副長……?」
山﨑が、微笑んで俺を見ている。ぞくりと肌に粟がたった。何か、本能が山﨑に逆らってはいけないと報せてくれている。
「……わかった」
「……俺、山﨑さんには逆らわないようにしよう」
「原田さん、私は、良い子にしてれば怒ったりしませんよ?」
「どうせ俺ぁ悪い子だよ!」
「そうですね、副長もこれからはあんまり山﨑を困らせたりしないで下さいね」
「俺ぁ子供か!」
「子供を相手にしていた方が、なんぼかマシですわ」
しれっとそう言い捨てると、山﨑は自分の顔についた血を袖で拭いながら部屋を出ていった。追いかけて文句を言おうとした俺を、原田と斎藤が後ろから慌てて羽交い絞めにした。
「な……離せ!」
「やめておいた方がいい…………」
「そうだぜ? どうせ勝てないんだから、な?」
「く……っそおおお!」
これで頭に血がのぼったのが悪かったのか、この後俺は、腕の痛みで脂汗を流し、しばらく出してなかった高熱に魘される事になった。
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