第14話 土方・3



「また副長の為に仕事が出来ると知れば、島田さんや大石さんあたりが大喜びしそうです」

「本当は、俺の事なんか放っときゃいいんだ。組の仕事が目白押しなんだし」

「何が一番大事かは、考えなくとも決まっています」

「……変な奴等……」

 山﨑は笑った。同い年のこの男は、まるでずっと年上のようにしっかりしていた。柔らかい動作で仕事を難なくこなし、洒落もわかって実に気持ちいい。


(アレとは大違いだな……)


 斎藤の顔が浮かぶ。仕事は難なくこなすが、がちがちに凝り固まった洒落のわからない男を思い出し、思わず噴出した。驚いたようにこちらを見る山﨑に、心配いらないと手で合図をして、ゆっくりと屯所へ足を向けた。




「何かありましたか?」


 見廻りの報告に来た斎藤が、俺の顔を覗き込んでそう言った。


「いや、別に?」

「そうですか? 先ほど、監察方が各々変装をしてでかけて行ったし、貴方の顔が少し曇っているようなので、何かあったのかと……」

「俺の顔が? 気のせいだろ」

 斎藤は、気は利かないが、妙に鋭いところがある。総司も勘が鋭いが、斎藤もまた同じだった。理屈がわかっていないのに勘でこちらを読まれてしまうと、誤魔化すのが難しい。俺は溜息をついた。

「では、監察方は、いったい……」

「さぁ? 桜見には、もう遅いけどなぁ?」

「土方さん。やっぱり何かあったんだろう? あんたは、そういうところで嘘をつくから……」


 火鉢の引き出しから煙管を取り出そうとして、斎藤に腕を掴まれた。はっとして顔をあげる。相手は、どうも怒っているように見えた。

「もしかして怒ってるか?」

「怒ってますよ。言ったでしょう。俺だって心配くらいします」

「どうも語り口が淡々としてるから、わかり難くてな」

「…………何があったんですか?」

 昼間の件を話した。話し終えたと同時に、斎藤が腰をあげる。何事かと尋ねると、自分も監察の手伝いをしてくる、と鼻息を荒くして言った。

「なにやら発奮してるようだけどよ、お前には違う仕事があるんだ」

「……なんですか?」

「ここで、俺の相手をしててもらえねぇかね」

「はい?」

 昼間見た、あの男の顔が目に焼きついて離れない。青白く、ぎらぎらした目。女子供じゃないけれど、それを思い出すと怖くていられないのだ。そんな事を斎藤に教える気はなかったが、事情を知っている人間が今夜だけでも近くにいてくれれば、救われるような気がする。監察の連中は、その気持ちだけは推し量る事が出来なかったようで、全員でかけてしまったのだ。


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