第40話 フェリス王国編――フェイスの街②
朝ごはんは、シーマ・カレルの塩焼きを混ぜたおにぎりと卵焼きにした。
スープが欲しいところだが、今日は忙しくなる予定だったアリスは見事に割愛した。
軽い食事を終えたアリスは、アンジェシカとフィンと共に街へと繰り出していた。
目的は、アクセサリー用の材料を買うことだ。
アクセサリー用とアリスは言っているが、実は魔道具の材料でもあるためアンジェシカのオススメのお店に行く。
アンジェシカの案内で大通りを抜け、冒険者ギルドの前を通り抜け、少し狭くなった道を進むとその店はあった。
赤いレンガ造りの建物は、ところどころにうねる木を上手く使っている。
入口は、大きな木の枠に囲まれていて、店の前には薬草と呼ばれるハーブが小さな花壇に植えられていた。
店の名は、魔道具専門店リニーと言う。
アンジェシカに促され、アリスとフィンは手をつないだまま店内に入る。
建物からは想像できないほど広い店内には、所狭しと魔道具や魔道具に使う材料が置かれている。
その中からアリスは自分の目的である、金具や金属の棒を探す。
「アリス、あそこにあるみたいだよ?」
フィンに呼ばれ顔を上げたアリスは、彼の指が指した先を見る。
そこには、金、銀、青、、七色、すすけた銀、赤銅色の板がおかれていた。
「フィンにぃありがとう!」
「どういたしまして」
にっこり笑ったフィンに、アリスもにっこり笑って返す。
少し高い位置にある金属板は、既に加工されているのか綺麗な三〇センチの正方形をしていた。
金属の前には名前と値段が書かれている。
他にも青銅が大銅貨二枚、鋼鉄が中銅貨二枚。
まずとアリスは考える、ヒヒイロカネと金は値段的な問題で却下する。そして、どうみてもアクセサリーに使えない銅と鉄鋼、鉄も却下すれば残るのはミスリルと銀だ。
銀に魔力を込めたものがミスリルだと、説明にかいてある。
だったらとアリスは、銀の板を買うことにした。
銀板一枚が、大銅貨一枚。
予算は金貨一枚だから、とりあえず半分残すとしてと考えたアリスはフィンを呼ぶ。
「フィンにぃ、七〇枚欲しいの」
「そんなに買うの? 他にも買うとお金なくなるよ?」
「大丈夫! 七〇枚で色付きの皮紐が見たいの」
「探してみようか?」
「うん」
ずっしりとした銀板は、一枚当たり五百グラムと言ったところだ。幼いアリスの身体では、流石に五〇枚は抱えきれない。
だからこそフィンに持ってもらう事にする。
アリスのお願いを聞いてくれたフィンは、軽々と片手で銀板を七〇枚を持ちあげる。
細身なのに、どこにそんな力があるのか、アリスは不思議に思いながらフィンと店内を見て歩く。
「あ、あった!」
うろうろと探し回り、少し疲れたなと思ったところでアリスの視界に色とりどりに染められた皮ひもが見えた。
細長く切られ紐は、幅五ミリ長さ一メートルで売られている。
色は、黒、白、こげ茶、赤茶、赤、オレンジ、黄色、青、水色、藍色、緑、黄緑と全二五種だ。
値段は、五本で銅貨二枚。
これなら全部買っても余裕でお釣りがくると考えたアリスは、すべての色を一〇本ずつ手に取った。
店主さんはリニーさんと言う、優し気なおばあさんだった。
彼女に買いたいものを見せて会計してもう。
購入金額は全部で、銀貨七枚と大銅貨一枚だ。
支払いに金貨を一枚渡せば、銀貨二枚と大銅貨九枚が返ってきた。
それをお直し終えたアリスは、買った銀板と紐を魔法の鞄に入れるフリをしてストレージに直した。
魔道具展リニーを出たアリスはアンジェシカにどこへ行きたいか問われて、神殿に行きたいと答える。
アンジェシカやフィンに「アリスは信心深いね」と褒められたアリスは、ルールシュカ様にはお世話になってるからと心の中で思った。
商業ギルドの前を通り坂道を登って漸くついた神殿は、リルルリアの神殿よりもはるかに大きく荘厳な佇まいをしている。
入口はリルルリアと同じく開いていて、側には受付をしていると思われるシスターが立っていた。
アンジェシカが、シスターに小銭を渡し中に入れてもらう。
『アリス、ここに女神さまがいるの?』
『そうだよー。ユーランも会いに行こうね!』
『うん。ボク、ドキドキしてきたよー』
入口を抜けながらユーランと話したアリスは、祈りの間につくと正面を見あげた。
優しく見下ろすルールシュカの石像は、この場にいる全ての者に慈愛を浮かべ、ほほ笑んでいる。
その石造を見ながら、アリスは本当に神様なんだなーと今更ながらの感想を浮かべた。
祈りの間に置かれた椅子にアンジェシカ、フィンと共に座ったアリスはルールシュカへ祈る。
途端に、アリスは見慣れた空間に立っていた。
「やっほ~アリスちゃん。それから、ユーラン君だっけ? 元気そうね?」
「ルールシュカ様、お久しぶりです」
『女神ルールシュカに拝謁願い、恐縮デス』
白い空間に立つルールシュカは、相変わらずのリクルートスーツ姿だ。
ユーランはルールシュカと初対面のため酷く緊張している。
そんなユーランに、石像と変わらず慈愛の瞳を向けたルールシュカは優し気にほほ笑む。
「うふふ。そんなに緊張しないで? あなたがアリスと契約してくれて私嬉しく思ってるのよ。それから、アリスたまに見てたから知ってるけど、色々あったみたいね?」
確かに色々あった。
ありすぎて忘れたいぐらいあった! 神のキッチンに入る時の恥ずかしい過去や神のキッチンの激マズ料理など……本当に色々とやらかした。
と、過去の黒歴史を思い出していたアリスは、そう言えばと思い出す。
「ルールシュカ様に、お菓子作ってきたんです!」
「ありがとう! 凄く楽しみにしてたのよ!!」
『女神様はお菓子が好き? ボクは、アリスの果物と野菜が好き!』
「えぇ、好きよ。見てた時凄く美味しそうで、絶対食べたいと思ってたの!!」
アリスがルールシュカに用意したお菓子は、苺のミルフィーユ、フルーツシュー、ミルクプリンだ。
どれも甘いが、ルールシュカなら太ることは無いだろうとアリスは勝手に思っている。
ルールシュカが用意したテーブルに、アリスはお土産のお菓子をおいた。
ついでとばかりにユーラン用の兎型のリンゴを出すと、スキルについて聞くことにした。
「そう言えば、聞きたいことがあったのですが……」
「何かしら?」
「私のスキルに神の裁縫箱ってありますけど、あれって皮製品もつくれますか?」
「勿論、出来るわよ! あと、材料と形さえきちんとイメージしておけば、どんなものでも作ってくれるわよ。まぁ、アリスちゃんは、自分で作りたいだろうから、マニュアルっぽい物のも入れてあるわ」
「マニュアルまでですか?」
「うん! だって、あっても作り方がわからなかったら使えないでしょ?」
「確かに……」
納得したアリスは、深く頷いた後ルールシュカへ改めてお礼を伝える。
「あぁ、そうそう。宝飾も使いたい金属と石、形さえ思い浮かべれば出来るわ。まぁ、それで言うと、錬金や鍛冶も覚えちゃえばアリスちゃんなら自由自在に作れるわけだけどね」
にっこりと笑って爆弾発言をかますルールシュカにアリスは、心の底から頭が痛くなった。
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