第壹譚

 俺は、ノートを押し入れの奥へと隠した。なるべく視界に入れたくなかったからだ。

 しかし、朝起きるとノートは必ずリビングにあるテーブルの上に置かれていた。毎晩、誰かが部屋の中を歩き回る音も聞こえる。

 俺の精神は徐々に崩壊していった。精神病院にも行き、処方された薬を飲んだがまるで効果がない。

 神社仏閣にも行ったが、塩を掛けられたり突然念仏を唱えられたりした。

 そんなある日の事、俺は街中で一人の托鉢僧に出会ったんだ。彼は俺と目が合うと酷く驚いた顔をして、それから一心不乱にお経を唱え始めた。



 <……また、か>



 そう思い俺は元来た道を戻ろうとした……すると、托鉢僧は俺に声をかけてきたんだ。



「……お待ちなさい」

「 ! ……なんですか ? 」



 俺は訝し気な顔で托鉢僧を見た。



「貴方は、何か恐ろしい呪いに付き纏われていますね。……残念ですが、私の力ではどうする事も出来ません」



 予想していた通りの言葉ではあったが、面と向かって言われるとショックは大きかった。だが、彼は言葉を続ける。



「だが、助かる方法がない訳ではありません」

「 ! ほ、本当ですか ! ? 」

「その呪いの元凶を何処か遠くの山……出来れば呪いの【主】に縁のある土地に埋めて来なさい。線香を持ち供養をして差し上げるのです。


 ……後ろの御仁だけならば、私の師が祓って下さる筈です」



 もう手の打ち様が無いと諦めていた俺にとって、それはまるで……

 真っ暗闇の中、天からもたらされた細くて脆い蜘蛛の糸…………正に希望の光だった。

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