呪いの日記帳

里 惠

第壹譚・始まり。

第壹譚だいいったん


「ねぇ【呪いの日記帳】って、知ってる ? 」

「【呪いの日記帳】 ? 」


 仕事帰りに寄ったファミレス。食後の珈琲を飲みながら、まったり寛いでいると隣の席で話している女子高生の声が聞こえてきた。


「なんかね。最近ネットで話題になってる都市伝説なんだ」

「あんたって、そう言う話し好きだよね……で ? どんな、話なの ? 」


 怪談か……何時の世も、多種多様な話題が世間に散らばり人々を賑わせている。特に、怪談は老若男女問わず共有出来る話題の1つだろう。

 お茶の間で流れるテレビ番組も、怪談系が増えている様に思う。今や怪談は夏特有の風物詩ではない。


 <……とは言え、わざわざこんな時間にファミレスで出す話題か ? >

「んっとね。見た目は、普通の黒いノートなんだって……でね?

 古本屋とか図書館に不定期で “現れる” らしいんだ」

「ちょっと、 待って。“現れる” って、どう言う事 ? 」

「それがさ、買い取ったり発注したりした覚えがないのに……いつの間にか本棚にまぎれ込んでるらしいの。」

「・・・・・・それって、都市伝説を聞いた誰かが悪戯してるだけでしょ」

「まぁ、その可能性も無くはないかもだけど……問題は、中身なんだよ」

「中身って、内容 ? なんて……、書かれてんの ? 」

「解んない。」

「は ? 何、それ ? 」

 <は ? なんだ、それ ? >


 思わず心の中でツッコんだ言葉は、奇しくも話を聞いていたもう一人と被った。肝心な部分が解らないなんて、拍子抜けも良いとこ……そりゃ、ツッコミたくもなる。

 だが、そんな反応気にも留めずに女子高生は話を続けた。


「だって、読んだ人み~んな死んじゃってるんだもん」

「あほくさっ……そんなん、どう考えても作り話じゃん」

「えぇ ? なんでよ ? 」

「あのね。読んだ人がみ~んな死んじゃってるのなら、噂を流してるのって誰よ ? 」

「え ? 」

「はぁ……仮に読んだ人が死ぬ前に噂を流したのなら、本の内容も解る筈でしょ ? 

 また、読んだ人の知り合いが流した噂だとしても……内容が解らない以上、読んだ人が死んだ理由がその本にあるとは言い切れないし証拠がないじゃないの」

「な、成程……」


 先程まで嬉々として話ていた女子高生は、友の的確な指摘に対し何も反論出来ず……すっかり意気消沈してしまっている。


 <正論とは言え、可哀想に……>


 名も知らぬ女子高生にほんの少し同情をしながら、すっかり冷めてしまった珈琲を飲み干す。


「……さて、そろそろ帰るか」


 腕時計で時間を確認した俺は、鞄と伝票を手にそのままレジへと向かった。


〈所詮、人間の作り出した妄想や幻覚に過ぎない。本物の怪談なんて、ある筈がないのだから……〉

「まぁ……暇潰しのネタとしては、ちょうど良いけどな」


 そんな事を独り言ちながら、店を出ると雪が降り始めていた。

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