第24話 ミスコン
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その後、私たちは体育館に羚衣優を送り届けて、そのまま客席でミスコンを見届けた。体育館に移動する段階からすでに羚衣優は道行く生徒たちの注目を浴びており、まるでハリウッドスターにでも遭遇したかのような騒ぎが発生しかけたので、私や優芽花は警備に苦労した。心羽先輩まであの騒動に巻き込んでしまったのは実に心苦しい。
外部の野次馬たちは生徒会や企画委員が追い出したのか、体育館のステージは滞りなく進行しており、私たちが舞台袖に羚衣優を送り出すと、彼女は少し心細そうな表情をしていた。
けれど、実際に彼女の番になってステージに上がった羚衣優は、この世のものとは思えない美しさを存分に発揮した。噂によればギャラリーの数人が興奮のあまり卒倒し、保健室に運ばれたらしい。
とにかく、羚衣優は2位にそれなりの差をつけてミスコン優勝に輝いた。終わり際になって駆けつけた生徒会の面々は、抱き合って喜び、特に茉莉はその場で感極まって泣き出し始めた。多分、茉莉の泣き顔を見れるのは後にも先にもこの1回だけだろう。
そして今、舞台の上では中等部のミスコンに続いて高等部のミスコンが開催されている。
校内に数多所属する有名人やアイドル、女優などが参加するこちらがむしろメインイベントのようで、体育館は先程とは比べ物にならないくらいの喧騒に包まれていた。
「高校生のミスコン……いったいどんなすごい人たちが出てくるんだろう……」
「今年の高校生世代は粒ぞろいっすからねー。とりあえず、ゆりりん先輩とひさかべ先輩、みやび先輩あたりは固いんじゃないっすか? あとは2年生の泉姉妹とか。……あ、でもあの人たちはミスコンなんて興味無いっすかね」
「うーん……」
何となく呟いた私に、隣の優芽花が答えた。
確かに、人気アイドルグループ『椚坂108』に所属しているだけあって、ゆりりん先輩こと見滝百合葉先輩と、ひさかべ先輩こと姫咲部律歌先輩の可愛さは抜群だし、たまにしか見た事ないけれど女優をやっている天野雅先輩もすごく綺麗だ。羚衣優とはまた違った、洗練された美しさというものがある。
私はよく知らないけど、泉姉妹というのもすごく綺麗な先輩なのだろう。
「高校生に混ざっても、あたしの羚衣優せんぱいが優勝すると思いますけどね!」
「おっ、づきちゃん言うっすねー。椚坂のファンに刺されるっすよ?」
「その前に刺し返すから平気だもん」
茉莉と優芽花が微妙に笑えない冗談を言い合うのを苦笑しながら見ていると、会場を割れんばかりの歓声が包んだ。
「うわ、うるさ……」
思わず呟いた自分の声すらまともに聞き取れない。
見ると、見事に着飾った10人ほどの高校生が、舞台上に横一列で並んでいた。各々自分の番号が書かれたプレートのようなものを持っているのは中等部のミスコンと変わらないが、メンバーのオーラというか、覇気というか、そういうものが中等部とは段違いだ。もちろん、衣装やメイクの気合いの入りようや、彼女たち自身の見た目の美しさというものもあるけれど、やはり場数の違いだろうか。
「すご……」
自分なんかでは到底及ばない格の違いを見せつけられて、私はただそう呟くしかなかった。
歓声が止んできて、司会の生徒が参加者を紹介する。と、やはりゆりりん先輩やひさかべ先輩、みやび先輩などはちゃんと参加していて、紹介される度にまた会場が沸いた。中には「ゆりりーん!」とか「ひさかべちゃーんだいすきー!」などと叫ぶ生徒もかなりいた。
「あれ、確かあの人は幽霊……」
ふと、私は列の端の方に目立つピンク髪を目撃した。あの人は多分チュロスの屋台のところで三神絵凛先輩を拉致していった幽霊……だと思っていた人。ちゃんと番号をもらってミスコンに参加しているということは、どうやら幽霊ではなかったらしい。にしてもあの幽霊──だと思っていた先輩、ゆりりん先輩達に並び立てるということは結構有名人……だったりするのだろうか? 司会の人は彼女を『人気YouTuberの津辺侑卯菜』と紹介していた。
帰ったら調べてみよう。
「いやぁ眼福っすねぇ……我が人生に一片の悔いなし……」
「ゆめちん!? 昇天しないのしっかり!」
私の隣では、優芽花が失神しそうになり、一悶着あった。
結局、高等部ミスコンは優芽花の予想どおりアイドルや女優勢が表彰台を独占し、優勝はゆりりん先輩こと見滝百合葉先輩ということになった。その表彰式で、高校生徒会現会長の君藤芽依先輩から、次期生徒会長をゆりりん先輩にするというサプライズ発表があり、会場を大きく盛り上げた末、中等部優勝者の羚衣優も舞台上に上げてゆりりん先輩と2人で写真撮影会なるものが開かれた。
茉莉の言うとおり、羚衣優は現役アイドルのゆりりん先輩と並んでも全く見劣りがしなかった。まるで自分のことのように誇らしそうにしている茉莉、そして舞台上でチヤホヤされて茉莉の方に助けてほしそうな視線を送る羚衣優。でも、羚衣優が解放されたのは、ミスコン参加者ほぼ全員と代わる代わる記念撮影をした後だった。
すぐさま慌ただしく文化祭閉会式の準備を始める企画委員。
流石に疲れを顔に浮かべた羚衣優は、舞台を降りるや否や真っ先に茉莉に駆け寄って抱き合う。そこに生徒会の面々も加わって羚衣優を労うムードになったので私もその輪に入ろうとしたら、後ろから誰かに袖を引っ張られた。
心羽先輩だ。
「ねぇ、ちょっといい?」
「なんですか?」
「ここだとちょっとあれだから……」
心羽先輩に手を引かれてその場を後にする。
体育館の喧騒から離れて、人気の少ない校舎の裏庭にやってくると、そこに見知った人物が待っていた。……絆先輩だった。
その時、私は大事なことを忘れていたことに気づいた。
「あっ、ダンス!」
「はぁ、もう遅いよ……まあいいけど」
そうだ。色んなことが立て続けに起こってすっかり忘れていたけど、心羽先輩とデートをした目的って、絆先輩に私たちが仲良いところを見せつけるため……だったはず。そして、絆先輩の前で社交ダンスして息がピッタリなところを見せて嫉妬させる……と。
ということは、今この場で踊るのだろうか?
「……心羽? あなたは、玲希ちゃんね? どうして二人が一緒にいるの?」
絆先輩も突然現れた私たちを見て、状況が飲み込めていないようで、しきりに首を捻っている。
「ねーね、いきなり呼び出してごめん」
「ううん、それはいいんだけど……何の用?」
「あのね、ねーねに大事なことを伝えようと思って」
「大事なこと?」
心羽先輩は体育館で事前に絆先輩を裏庭に呼び出していたらしい。閉会式が迫っていることに気づいてプランを変更したのだろうか。まだ私も、絆先輩も、心羽先輩の意図を測りかねている。
その時、心羽先輩は私の肩に手を回して力強く抱き寄せた。
「えっ!?」
「わたしたち、付き合おうと思います」
「「えぇーっ!?」」
私と絆先輩は驚きのあまり変な悲鳴を上げた。でも心羽先輩は構わずに続ける。
「実は玲希とは少し前からちょくちょく遊びに行ってたんだけど、仲良しなの。黙っててごめんね?」
「えっ、でも心羽……玲希ちゃんのこと嫌いじゃなかった? ねーねを取る泥棒猫ってボロクソに言ってなかった?」
「そ、そんなことあったかなぁ?」
「あったよ。ちっちゃい見た目を利用してたぶらかす悪魔だって言ってた」
「知らないなぁ……」
「……」
心羽先輩、絆先輩に私の事そういうふうに言ってたのか……地味に傷ついた。
「で、でも! 今は仲直りして! この子結構素直でいい子だし! わたしとの相性もいいみたいだし!」
「玲希ちゃん。……もしかして心羽に脅されてたりする?」
「えっ、いえいえそれはないです!」
慌てて両手を振って否定しておく。すると絆先輩はしばらく考えるような仕草をした末、ニッコリと笑顔になった。
「よかったわ! 心羽もついに好きな人ができたのね!」
「えっ」
「心羽ったらずっと私にべったりだったから、いい人ができるか心配だったのよ!」
「……」
「玲希ちゃん、心羽をよろしくね!」
「……は、はいっ!」
「ねーねのバカっ!」
突然、心羽先輩が叫んだかと思うと、私の腕を掴んでそのまま駆け出した。
「うわぁぁぁっ!」
どれほど走っただろうか。弓道場とアーチェリー場の間の暗がりに私を連れ込んだ心羽先輩は、私の頬をペシペシと叩いた。
「思ってた反応と違った!」
「ふぇぇ?」
「ねーねは! わたしと玲希が仲良くしてるの見て嫉妬すると思ったの! でも違った!」
「ちょ、ちょっと落ち着いてくださ……」
「バカ!」
「ぶへっ!?」
心羽先輩の平手打ちに戸惑っていると、今度は顔を伏せて泣き始める先輩。
「……ねーねはわたしのこと、なんとも思ってなかったんだ」
「そ、そんなことないと思いますよ……」
「でも、じゃあなんで嫉妬してくれなかったの! なんでよかったなんて言ったの!」
「そ、それは……きっと心の中では嫉妬してるけど、心羽先輩のことが大好きだから先輩の意思を尊重したのでは……」
「はぁぁ……」
心羽先輩は大きくため息をついて項垂れた。私は先輩にかけるべ言葉が見つからなかった。
「なにが心配だったよ……なにが心羽をよろしくよ……」
「あ、あの……ごめんなさいタマのせいで……」
「……」
暫し気まずい沈黙が流れた。私は何も言えずにただ先輩に寄り添うしかなかった。私には先輩の気持ちが理解できるとはいえない……。理解できないのに慰めるなんて、そんな無責任なことできるわけ……。
と、しばらくした後、心羽先輩が顔を上げて私の肩をしっかりと掴んだ。
「……ねぇ玲希、わたしたち本当に付き合っちゃおっか」
「えっ?」
「だーかーらー……付き合お?」
「えぇぇぇぇぇっ!?」
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※ゲスト出演は星花女子学園有名人の皆様
・見滝百合葉(椚坂108)
・姫咲部律歌(椚坂108)
・天野雅(女優)
・津辺侑卯菜(人気YouTuber)
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