第19話 幽霊?
「おい絵凛、このオカルトヤロウ! ヒトを問題児みたいに言いやがって!」
案の定、三つ編みの先輩はそれを聞いていた金髪の先輩に絡まれた。だが、三つ編みのは落ち着いた様子で肩をすくめるなどしている。
「沙夜は態度は乱暴だけど、ホントは心優しいいい子なんだ」
「ふあっ!? なんだいきなり気持ち悪ぃな!」
「旬は思ったことを素直に口にできる真っ直ぐな性格で──」
「え、なに? 褒めてくれなんて言った覚えないけど……」
「百歌は周りを明るくするムードメーカー」
「そのとおり、ボクこそが太陽!」
「流々は好きなことには一生懸命だし」
「ふぁっ、勿体なきお言葉……!」
「で、加奈子はサバサバしていてとても付き合いやすい」
「……うんうん! そう! よく言われる! あははーっ!」
「ってのが全部分かってるのは多分ボクとあいつくらいのものだと思うけど」
すると、金髪の先輩は呆れたように鼻を鳴らした。
「はんっ、まーたアレか? 幽霊ってやつなのか? アタシはそういう脅かし方されても、ビビらねぇからな」
「でも、この前もそんなこと言って酷い目にあったみたいだけど……」
「あれはなんていうか、ただ転んだだけだ! 偶然だ偶然! 幽霊なんかいねーっての!」
「ふーん、そう。まだ信じてくれないんだね……」
「……うわぁぁぁぁっ!」
「行きましょう心羽先輩」
「……そうね」
一瞬この三つ編みの先輩がマトモだと思った私がバカだった。やっぱりこのクラスは変人──というよりキャラが濃い人達が多いらしい。これ以上この場にいると呪われかねないので、心羽先輩と一緒に抜き足差し足で退散しようとした。
でも、その試みはまたしても阻止された。反対方向からやってきたゆるふわロングの先輩が私たちに気づいて声をかけてきたのだ。両手にはたくさんのクレープを抱えている。料理部にいた先輩だ。──確か『しお先輩』と呼ばれていたような。
「あれ? さっき料理部に来てくれた子たちだよね? こんなところで会うなんて奇遇だね」
「しお先輩……でしたっけ。先輩こそどうしてここに?」
料理部でたくさんクレープを食べてきただろうに、今さらチュロスを食べようなんて普通は思わないはずだ。……余程のスイーツ好きじゃない限りは。いや、料理部ならありえる気がしてきた。
「ここ、わたしのクラスだから」
「えぇっ!?」
もしかしてしお先輩も隠れ変人だったの!? と私は身構えたけど、多分それを察知したであろうしお先輩は慌てて首を振った。
「心配しなくても、クラスのみんながみんなああいう感じじゃないから……」
しお先輩がチラッと屋台の方に目を向けると、そちらではいまだに金髪の先輩とおさげの先輩の小競り合いが続いていた。そこにほかの四人も加わり、事態はさらにカオスになろうとしていた。
「もう、仕方のない子たちね……」
ためらいもなく、屋台に歩いていくしお先輩。そして、不毛な諍いを続けるクラスメイトたちに、手に持っていたクレープを押し付けて回る。
「ほら差し入れよ。ご苦労さま」
「おっ、詩音は気が利くな。ありがとう」
「はいはい、作りたてだからおいしいよ?」
「いただきますっ!」
「……やっぱり料理部ってすごいですね」
「そう……? ううん、そう、かも……?」
私は感心したけれど、心羽先輩はどこか釈然としないようだ。ただ単に、しお先輩が食べ物一つであんな個性豊かな人達を大人しくさせてしまったという事実を受け入れられないのかもしれない。
決めた。高校では生徒会辞めて料理部に入ろう。
そう決意しながらしお先輩を眺めていると、後ろからポンと肩を叩かれた。振り向くと、また別の先輩がこちらを見下ろしている。三つ編みハーフアップの、優しそうな先輩だ。しお先輩が包容力抜群のお姉さんタイプだとしたら、こちらの先輩は身近で寄り添ってくれそうな、委員長タイプだろう。
「うちのクラスメイトが迷惑かけたみたいでごめんなさい。でももう大丈夫だから」
「め、迷惑だなんてそんな……」
「ん? 違った? 何か困っているみたいだったけど」
「まあ確かに困ってましたけど……」
「そう。でももう大丈夫。交代の時間だしね」
「委員長! よかった助かった。客が全然来なくて困ってたんだよ」
「まだ時間帯も早いし、勝負をかけるのはまだ早いわ。お昼時は私たちが引き受けるから、皆は上がっていいわよ」
「悪ぃ……」
どうやら本当に委員長だったらしい。委員長先輩の鶴の一声で、元から屋台にいた六人の先輩は待ってましたとばかりにエプロンを脱いで撤収を始める。よほど店番が嫌だったらしい。
よく見ると、委員長先輩は一人ではなく、後ろに四人の先輩を伴っていた。後ろの先輩たちは屋台の先輩たちに比べて落ち着いていて、癖が少なそうだ。──あくまでそう見えるだけかもしれないけど。
「委員長、海華、舞、桃奈、光、それに詩音。あとは頼んだ!」
「あーもう一生店番なんてやりたくない!」
「それじゃあボクは華麗に立ち去るとするよ。アディオス!」
「やっと終わったー! いよっしゃー!」
「いよいよ我らの宴の時間ですぞ!」
「やれやれ、帰る時も騒々しい奴らだなぁまったく……って、なにをするんだややめ──」
「絵凛せーんぱい! デートしましょ!」
「ちょっと待て、ちょっ──」
我先にとこの場を後にする五人、三つ編みの先輩だけはその様子を腕組みをしながら見送っていたが、どこからともなく現れた真っピンクの髪の先輩に拉致されて消えていった。あれが三つ編みの先輩が言う幽霊だろうか? 派手な幽霊もいたものだなと感心する。
新たに屋台を引き受けたしお先輩や委員長先輩を含めた六人の先輩は、先程の先輩たちとは打って変わって手際よく働いている──少なくとも表面上は。
客も見る見る間に増え、たちまち行列ができてしまった。呼び込みのしお先輩が上手なのかもしれない。
心羽先輩はそんな屋台の様子を眺めながらポツリと呟いた。
「あの委員長の水谷零さんは、確か高校生徒会の書記もやってる優等生……だった気がする」
「生徒会……!」
文化祭をやるにあたって、高校の君藤会長さんや副会長のひまりん先輩と話したことあるけれど、書記の人まで意識していなかった。
生徒会なら私と同じだけど、私が委員長の零先輩みたいになんでもテキパキ仕事ができるかと言われるとそんなことはないし、あんなに人望が厚いわけもないし、多分チュロスも作れないし呼び込みも上手くできない……思う。
年齢が違うというのもあるけれど、なにか私と彼女は決定的に違う。持って生まれたオーラというか品格というか、やっぱりすごい人はすごいんだなぁ。
「また気にしてるの? 自分と水谷さんを比べて卑下してるんでしょ?」
「うっ、なんでわかるんですか……」
「玲希の考えそうなことくらいお見通し。もうちょっと自分に自信を持ったら?」
「それができたらいいんですけどね」
「自分の良さに気づけるというのも才能だと思うけど」
「タマには無理ですよ……はぁ」
ため息をついた私の視線の先で、なにやら屋台に駆け寄ってくる人影が見えた。生徒ではなく先生のようだ。明るい茶髪が目を引く、文字通り明るそうな先生だ。が、慌て方が尋常じゃない。
「た、たいへんたいへんよっ!」
「どうしたんですかめぐみ先生?」
「たいへん、たいへんなの!」
落ち着いた様子で零先輩が尋ねるも、めぐみ先生の返答は要領を得ない。ただひたすらたいへんたいへんを繰り返している。
「めぐみん先生、落ち着いて。深呼吸してください」
「は、はいっ……! すぅーはぁー……あっ」
「あっ?」
行列を捌きはじめた零先輩に代わって、しお先輩が首を傾げていると、突如としてめぐみ先生はカッと目を見開いた。
「ステージで椚坂108のライブが始まるって!」
──────
※ゲスト出演は星花高等部2年2組の皆様です。
【高等部2年2組】
愛瀬めぐみ(めぐみん先生)
一ノ瀬沙夜(ヤンキー先輩)
蜂谷旬(ショートウルフ先輩)
華視谷流々(オタク先輩)
歌越百歌(歌劇先輩)
御山加奈子(置物先輩)
三神絵凛(オカルト先輩)
紫月詩音(しお先輩)
水谷零(委員長先輩)
日比野桃奈(VTuber先輩)
佐伯光(長身先輩)
花房舞(レズ先輩)
水梛志海華(親切先輩)
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