第20話 ハトの

 いつもの駅舎の屋根の上、ごみ箱をあさったばかりのカラスは満腹感でぐでーっとしていた。

 そこへ、ハトがやって来て……。

 

「先輩! ちいいいっす」

「くあああ、眠い」

「先輩、人間に捕まっているハトを見つけたんですよ!」

「何? それって人間に飼われているんじゃねえの?」

「いつも寂しそうに窓から外を見てるんですよ!」

「ん……」


 カラスの頭にピコーンと電球が飛び出る。こいつは……ひょっとして、ハトの恋じゃねえのか。

 もしそうなら……とても楽しそうだ。くええとカラスは邪悪な笑みを浮かべる。

 

「ハト、見に行こう。すぐ行こう」

「先輩、眠かったんじゃ」

「そんなもの、もう吹き飛んだ! ハトが悩んでいるんだ。すぐに行かないとな!」

「先輩……パねえっす! ついてきてください」

「おう!」


 ハトの顔が前を向いてカラスが見えていないことをいいことに、彼はぐふふと嫌らしい笑みを崩さず羽を羽ばたかせるのだった。

 

 ◆◆◆

 

「そんなわけでやってまいりました。とある家です」

「だから、誰に言ってんだ……お」


 駅から少し離れた閑静な住宅街に来たカラスとハト。

 ハトの案内した家は、その中でもとりわけ大きな邸宅で都心にあるというのに広い土地を誇っていた。

 立派な洋館に手入れが行き届いたブランコまである庭……およそこの二羽には相応しくない風景といえよう。

 それはともかく、二羽が注目しているのはとある窓だ。半円状に張り出した窓のデッキの上に、白いハトが座して外を伺っている。

 そのハトは首元が上品な茶色をしており、白い羽毛に汚れ一つない。

 

「近くに行こうぜ」

「え、ま、まだ心の準備が!」


 戸惑うハトを引っ張るようにカラスは窓越しに白いハトを挟むように降り立つ。

 え……これ……カラスの背中に冷や汗が流れた。

 

「か、可愛いっす!」

「そ、そうか……」


 どうしたらいい? 俺はハトに何て言えばいいんだ……カラスは心の中でくええする。


「ハ、ハト……こいつはしっかり飼われているハトだから……接触は難しいと思うぞ……」

「そ、そうっすよね。で、でも、たまに見に来るくらいならいいんじゃないっすか」

「ま、まあ……う、うん、そうだな」

 

 カラスの歯切れは悪い。

 キラキラしたハトの目を見ていると、彼はいたたまれなくなりくええと力なく鳴くとその場を飛び立つ。


「ハト、先に戻ってる」

「はいっす!」


 ハトよ……あの白いかわいこちゃんはぬいぐるみだぞ……。

 言えない、言えないぞ……。

 カラスは空を飛びながら、はああとため息をつくのだった。

 

 この後ハトは、家の住人が帰って来るまでじーっと白いハトのぬいぐるみを眺めていたという。

 

「か、可愛いっす!」

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