第15話 トレーニングマシン

「先輩、最近運動してますか?」

 

 いつもの駅舎の屋根の上で突然ハトがそんなことを言い始めた。

 

「ゴルフとかサーフィンとかやったじゃないか?」

「そうでした! 僕も先輩へ紹介したいことがあるんですよ」

「ほお」

「人間たちはトレーニングジムってところにわざわざお金を払って運動しに行っているそうじゃないですか」

「ああ、バカな話だよな。くええ」

「そうっすね! くあああ」


 うんうんとくえくえ頷きあう二羽。

 ひとしきりくあくあ鳴いた後、二羽は駅に入っていく人間たちを眺めてぼーっとする。

 

「くあああ。眠い」

「そうっすね」


 嘴をだらしなく開いてだらけるカラスとハト。

 

「あ、そういえばさっき何か言いかけてなかったっけ?」

「そうでしたっけ?」


 はてなマークを頭の上に浮かべながらお互いの顔を見やる二羽。

 ぐるりと首を回して後、不意に「あ、そうだ」とカラスはようやく先ほどのことを思い出した。


「トレーニングジムとか言ってたぞ、ハト」

「そうそう、先輩。僕がたまに行くトレーニングマシンがあるんですよ」

「ほう。行ってみるか?」

「すぐ近くっす」


 ハトは舞い上がると、駅舎の中へと入っていく。

 「ちょ、どこ行くんだよ!」とカラスは内心思ったが、とりあえず彼についていくことにした。

 

 ◆◆◆

 

「そんなわけで、やってまいりました駅のながーーーいエスカレーターです」

「人間にものすごく注目されているぞ……朝の通勤ラッシュの時間だからな」

「この手すりの上に乗るんです」

「え……」

「そして、駆けるんです!」


 ハトは得意気に動く手すりを逆走していく。ちょうどハトの動きと手すりの速度が同じらしく、彼はその場で足踏みするような形になるのだった。

 こ、こいつ狂ってやがる……カラスは心の中でそう呟くが、さすがに声に出してハトに言うには憚られると思いだんまりを決め込む。

 

 一方、ハトの狂行に驚いた人間たちはラッシュの時間だというのにスマートフォンを掲げてハトを撮影しているではないか。

 ハトは人間たちの様子にまるで気が付いていないことをカラスは見て取った。

 このままでは……まずい。カラスの背筋に寒いものが走る。

 

「ハト、もういい、もういいから」

「え? 何言ってんすか先輩! ようやく体があたたまってきたところですよ! くえええ」

「ま、まずい、まずいってハト!」

「大丈夫っす!」


 カラスの目に騒ぎを聞きつけた駅員の姿が映る。それも一人や二人ではない……ついでに網を持った警察官らしき姿まで……。

 

「いいから、ハト、逃げるぞ!」

「え、ちょ、先輩」


 カラスはハトの首根っこをつつくと、彼に後へ続くよう促し飛び上がる。

 しぶしぶといった様子でハトもそれに続くのだった。

 こいつ……一羽にするとやばい……カラスは改めてそう思ったという。

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