第10話 魚が食べたい

 都内某所の駅舎の上でぼーっと人の流れを眺めるカラスとハト。

 そろそろお昼だなあとハトが思った時、カラスが嘴を開く。

「ハト、何食べようか」

「先輩は何か食べたい物があるんですか?」

「そうだなあ、たまには新鮮な魚でも食べるか?」

「回転すし屋の裏っすか?」

「いや、今回は川へ行こう」

「先輩……、潜れるんでしたっけ?」

「いや、俺は水鳥じゃあないから、それは無理だ」

「ですよねー!」

「まあ、見ていろ。策はある」


 くああと自身満々に鳴いたカラスはハトに「行くぞ」と首で促した。

 

 ◆◆◆

 

「そんなわけで、やってまいりました河原です」

「だから、誰に……」


 突っ込もうとするカラスに対し、ハトはあっちを見てと言わんばかりに羽をバタつかせる。

 彼の目線の先には大量の鳥たちが川へ向けて突撃しようとしているところだった。

 

「先輩、あれって」

「そう、カワウだ」

「カワウっすか」

「カワウを知らないのか? ハト」

「い、いやあ。そんなことないっすよお」


 目が泳ぐハトへやれやれと肩を竦めたカラスはカワウについて解説を始める。


「いいか、カワウとは文字通り『川』に棲息する『鵜』なんだ」

「よくわかりません! 先輩!」


 そんな言いきられても……とため息を吐くカラス。しかし、ハトだから仕方ないと彼はすぐに思いなおすのだった。

 

「鵜ってやつは、水の中にいる魚ならなんでも食べちまう奴らなんだよ。カワウの奴も鵜飼いとして人間の漁に利用されているわな」

「へええ、カワウが魚を獲るのが上手なのは分かりました。でも、僕らは魚を獲ることはできませんよね?」

「まあ見ていろよ」

「はい!」


 ぼーっとカワウたちを眺めるカラスとハト。

 しばらくそうしていたら、突然カラスがくああ!と目をキラーンと輝かせ飛び立つ。

 ハトも慌ててカラスに続いた。

 

 その時、とんでもない爆音が鳴り響き驚いたカワウたちは一斉に川の向こうへと逃げていく。

 その中にはせっかくとった魚を落としてしまう者も……爆音程度にはビクリともしないカラスとハトは落ちて来た魚を無事ゲットすることができたのだった。


「す、すごいっす先輩!」


 とってきた魚を啄みながら、ハトはカラスを称賛する。

 

「おう、人間どもが放流した魚を獲られないようにああやって爆竹をたまに鳴らすんだよ」

「なるほど。僕たちはそんなもの気にしないですからね」

「人間は音やら網やら使って頑張ってるみたいだが、俺たちにはまるで効果が無いからな! くああ!」

「そうですね! くええ!」


 この上なく邪悪な笑い声をあげながら、二羽は魚を堪能したのだった。

 

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