第6話 刃物

――とあるマンションのごみ捨て場

「うーん、網でグルグル巻きだな、ここ」

「そうっすねえ」


 カラスとハトはコンクリートで四角く囲ったゴミ捨て場を見やる。

 そこは囲いがあり扉まで設置されているのだが、天井はない。つまり、空から侵入する二羽にとっては壁が無いのも同然だ。

 しかし、彼らの言う通り天井にはしっかりと緑色の網が三重に被せられている。

 

「これ、かえって網を被せるのが面倒じゃねえか?」

「思ったんですけど、先輩。マンションっていっぱい人間がいるんですよね?」

「ああ、これ捨てるたびに網被せてるのかね」

「さあ、さすがにそこまではしないと思うんすけど」


 ハトはそう言いながら、囲いの上に降り立つと「ハト除け」であろう丸い風車のようなものをつつく。

 

「それ、まるで効果が無いよな」

「そうっすねえ」


 カラスは口には出さなかった……いや出せなかったが、ハトの蛮勇さを少しでも知っているのなら脅しなどまるで効果が無いって分かるもんだろうとくああする。


「先輩、それで……この網をどけるんですか?」

「そうだなあ。お、そうだ。いい物を見つけたんだ。待ってろ」


 カラスの頭にピコーンと電球が浮かび、彼は囲いの裏側へと消えていく。

 

 ◆◆◆

 

――三分後

「な、何持ってんすか! 先輩、パねえっす!」

 

 ハトの驚きの言葉へカラスは応えず、ヨロヨロと囲いまで歩いてくる。

 なんとカラスの口には自分の身の丈ほどもあるナイフがくわえられていたのだ。

 

「先輩、それでぐっさりといくんですね!」


 ハトの言葉にカラスは軽く頷くが、それだけでもナイフの重さに体を持っていかれそうになる。

 カラスはその場で羽ばたくと空へと舞い上がった。

 

「お、おおお、先輩! すげえっす! さすがっす!」

「うるせえ! 黙って見ていろ! あ」

「あ」


 ハトに思わず突っ込んでしまったカラスの口からは当然ナイフが落ちる。

 そのまま落下していくナイフ……その行き先は。

 

 ハトの真上である。もう一度言う、ハトの真上である。


「危ねえ、ハト!」

「え?」


 サクっとナイフがハトの翼の先っちょに突き刺さり、コンクリートまで到達したナイフは乾いた音を立てて転がった。

 

「ああ、ビックリしたっす」

「刺さってたって!」

「気のせいですよ。くああ」

「くえええ」

「じゃあ、もう一回やりますか? 今度は僕が……」

「それはやめてくれ。もうナイフはいいから!」


 絶対次は俺に刺さるとくああしたカラスは、ハトを必死でとめたのであった。

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