閑話 お前、どこ小だよっ!
ドタバタと走る音が家中に響く。
「……うるさいのぅ」
最新の開閉器ゲーム機や遊びで使うゲーム機などはもちろん、既に販売が終了したり、撤退してしまったゲーム機や当時でさえ殆どの人が買っていなかったゲーム機などが散らばっていた。
多種多様なゲームソフトも山のように広がり、テレビ前を占拠していた。
そこに埋もれながら、つい先日発売されたイカの陣取りゲームをしていたティーガンは、朝になって聞こえ始めた足音に眉をひそめる。
ドタンと扉が開く。
「時間が、時間が――って、ティーガン様っ! まだ、起きていらっしゃったんですっ!? っというか、部屋の明かりくらい着けてですっ!」
「あ、目が、目がっ!!」
パチンっとLED電球がつけられ、シャーと締め切られたカーテンが軽快よく開く。部屋中に光が満ちる。
半日中テレビの前に座り、暗がりの中ゲームをしていたティーガンは思わず転げまわる。まわりのゲームソフトタワーが崩れ落ちる。
「目が、じゃないです。ったくもう。服、ちゃっちゃと脱いでです。洗濯機回すんです」
上はTシャツ、下は制服のスカートのウィオリナはナイトパジャマをティーガンの前に置きながら、言う。
「……む。妾がやるのじゃ」
「そう言って、途中で寝るじゃないです? 昨日だって」
「う、あれは疲れておったから……」
「朝までゲームをしているからです。まぁ、いいです。エルダーです? それともジンジャーです?」
「……エルダーじゃ」
「わかりましたです」
着ていた部屋着をハラリと脱ぎ捨て裸になったティーガンは、散らばったゲームソフトを片づける。脱ぎ捨てた部屋着とナイトパジャマを手に洗面所兼脱衣所へと移動する。
部屋着をネットに入れ、バルルンッと双丘を揺らしながらナイトパジャマを近くの籠に入れる。洗濯機を回した後、浴室へと入る。シャワーを浴び、出る。
艶やかな紫の髪を柔らかなバスタオルで撫でる。体の水気もふき取り、洗面所の前で化粧水に乳液……手入れをする。
そして血法で髪の毛を操作して完全に乾かし、ナイトパジャマを着る。
「ふむ。アッサムかの?」
漂う匂いからそう判断したティーガンは、少し鼻歌を歌いながらリビングへと戻る。
「ありがとうなのじゃ」
「どういたしましてです」
ベーコンがのったスコーンやハチミツ、人参とトマト、レタスのサラダ。それからティーポットの紅茶と氷が入ったグラスの底のエルダーフラワーコーディアル。
ウィオリナはジンジャーレモンのようだ。
ティーガンとウィオリナが席に座る。
「いただきますなのじゃ」
「いただきますです」
手を合わせて、日本流に合わせて食事の始まりを告げる。
ウィオリナもティーガンも、早く日本語に慣れるためか基本的に日常生活でも日本語を使う様にしている。
二人とも言語の習得には大した労力を使わないため、後は使い慣れるだけなのだ。
「そういえば、四日後には修学旅行じゃったか。どこにいくのじゃ?」
「確か……京都です。一日目はクラス行動で二日目と三日目は自由、四日目はクラスだったはずです」
「なるほど」
ウィオリナは修学旅行のしおりを
と、
「本当にありがとうです」
「……家族じゃろうて。それにカーメルにも頼まれたしの。じゃが、うむ。楽しんでくるとよい」
「はいです!」
ベーコンがのったスコーンにハチミツをかけながら、ウィオリナは頷く。
と、ティーガンが心配そうに尋ねる。
「ところで、友達はできたのかのぅ? お主は同年代と接する機会も少なかったし、の?」
「もう、大丈夫です。アンさんやユキさんはもちろん、ミズサキさんやオオムラさんとかいるです。友達はいるですっ!」
「ならよかったのじゃ」
安心したように頷いたティーガンは、ところで、と壁にかかっていた時計を見やる。
「時間は大丈夫なのかの?」
「ッ! まずいですっ! アンさんとの待ち合わせがっ!」
ウィオリナは慌てる。残りのスコーンを一口で口の中に納め、レモンジンジャーコーディアルのアイス紅茶を一気に飲み干す。
食器をシンクに入れ、水につけた後、壁に掛けてあった制服の上を着ながら、手先から血糸を放出し、自室へのばす。鞄を回収する。
制服を着て、リビングに立てかけてある姿見を見ながら、艶やかな茶髪をサイドテールに纏める。何度か、体を回し、後ろまで確かめる。たわわな双丘はもちろん、スカート越しでもわかるムチムチのヒップが強調される。
と、
「これ、短パンを忘れておるぞ」
「あ、そうですっ!」
短いスカートに未だ履きなれていないウィオリナは、 慌ててショートスパッツを探し、履く。
「うむ。似合っておるぞ」
「ありがとうです」
最後にティーガンがもう一度確かめる。
「では、いってくるです」
「うむ」
そうして、ウィオリナは学校へ行った。
「……さて、やることやったら寝るとするかの」
今頃自動掃除機が動き出している頃だろうしの、と考えながらティーガンは床に置いていたゲーム機を上にあげる。洗い物をし、洗濯物を干す。
そうして朝のドラマが終わるころには、ティーガンは寝入っていた。
……棺桶にではない。普通のお布団である。
Φ
「……くわぁ。よう寝た。寝すぎたくらいじゃ」
外はまだ明るい。けれど、二、三時間もすれば夜の帳が降りる頃。
ティーガンは起きる。
「今日で40レベまで……いや、久しぶりに違うゲームでもするかの」
洗面台に移動し、顔をお湯で洗う。ナイトパジャマを脱ぎ捨て、お湯で濡らしたタオルで軽く体を拭く。うなじ、豊かに実った果実に健康的な腰からの太ももラインを拭く。
裸で自室に戻り、セクスィーな下着を身に着けた後、クローゼットを開ける。
そこには同じようなゴスロリ服が十着以上あり、二つ、三つ手に取る。姿見の前でそれぞれを試し、気に入った一つを着る。今日は、フリルがバラ柄なのがいいと思ったらしい。
「……じゃが、ふむ。だいぶ涼しくなってきたし、散歩もいいの」
それからドレッサーの前に座り本当に軽く化粧する。置いていた同じ上品なハーフバングルが幾つも入った小箱の中から、一つの選び出し、身に付ける。
それからお礼として直樹から貰った影で編み込まれたネックレスを手に取る。
因みに、貰った経緯は直樹が礼をしたいからということで、雪が貰っていた腕輪から、ならネックレスを、ということだったりする。ティーガン的には他意はなかった。
が、ティーガンがネックレスを貰ったことを知り、雪が若干不機嫌になったりした。そしてそこらへんが緩く甘い直樹がなんだかんだでネックレスまでプレゼントしているのだが……
まぁ、ご愛敬である。
身支度を整えたティーガンは、手早く外に干してあった洗濯物を取り込み、
それから玄関に並べてある十本近い日傘から一本を選び出し、玄関の扉を開ける。鍵を閉め、日傘を
散歩へとくりだす。
「今日は……公園近くを歩くとするかの」
幾分か適当に歩いたティーガンは、ふと行き先を決める。気分だ。
高い青空や流れる雲。少し暑さを
住宅に響く赤ん坊の泣き声。小学生低学年が足早に通り過ぎ、けれどティーガンをみてキャッキャと騒ぐ。ランドセルを振り回したりしている。
まだ紅葉にはほど遠く、それでも最盛は過ぎた木々の艶めきが優しい影を作る。
ティーガンは差していた日傘を閉じ、公園内の木立の道を歩く。静やかな秋蝉や小鳥の鳴き声、遠くに響く子供たちの笑い声。自分の足音。
ゆっくりと楽しみながら、ティーガンは歩く。
それから広場にでる。ランドセルを背負ったままの子供や、一旦家に帰ったであろう子供たち、バカをしている制服を着た男子中学生や、姦しく笑い声をあげる女子中学生などが多種多様にそこにいた。
木陰のベンチに座る。落ち着く。穏やかで親しみやすい雰囲気を醸し出す。子供を眺めるおばあちゃんの雰囲気だ。
と、
「お前、どこ小だよっ!」
今時珍しいやんちゃそうな少年がティーガンの前に立っていた。後ろの子分めいた子たちが、「や、やめなよ、大ちゃん」や「そ、そうだよ」と彼を止めていた。
……大ちゃんと呼ばれているらしい。大地君ではないそうだ。
と、皆、頬がほんのり赤かった。
身長が低いとはいえ、それ以外はナイスプロポーション。肌は陶器のように白く輝く。鮮血の瞳や唇は妖艶で、それでいて纏う雰囲気は深窓の令嬢の如く淑やか。
あり大抵に言えば、美少女だ。しかも、絶対にまわりにはいない系の美少女だ。テレビやネットですらあまりお目にかかれない。
ティーガンは少年を見やる。紫のドリルツインが揺れる。
「……どこ小とはなんじゃ?」
「どこの小学校なのか聞いてんだよっ! つい最近まで見なかっただろっ!」
「ふむ。なるほど。……妾は小学生ではない。大人じゃ」
口の聞き方がなってなくて、実にやんちゃな少年らしいと微笑ましく想いながら、ティーガンは首を横に振る。
少年が何故か顔を真っ赤にして怒る。まぁ、少年ってみんなわけのわからないところに引っ掛かって、怒るしな……
「嘘つく――」
「あ、あのっ! 写真撮ってもいいですかっ!」
「あ、私もっ!」
「どこのおしろにすんでるのっ!」
と、少年の横から女の子や少女たちが入ってくる。
下は小学一年生から、上は中学生まで。少年を押しよけて、ティーガンのまわりに集まってくる。
普通に美少女でおしゃれならじゃっかん違ったかもしれないが、ティーガンは物語や御伽噺から出てきたような存在だ。いわば、有名人にもつ感覚に近い。
可愛く美しいものに目がない女の子たちが集まるのも当然なのかもしれない。
それに節穴の少年と違い、女の子たちはティーガンが年上だと認識していた。だってゴスロリ服の上からでも分かる立派な果実をお持ちだし。
それにしても、写真を撮る許可を尋ねられるとは、いい子じゃな……。最近は無断で撮ろうとする子も多いし。
そんな事を考えながら、ティーガンは叫ぶ。
「しゃ、写真はだめじゃ。ちょ、落ち着くのじゃっ!」
「に、日本語っ! もしかしてハーフの方ですかっ!」
「そのブレスレット。もしかしてっ!」
「ねぇねぇ、どこのおひめさまなの?」
もみくちゃとは言わないものの、それでもティーガンは女の子たちに占拠されてしまった。
つまるところ、
「お、おい。俺がさいしょ――」
全員が一斉に少年をギヌロと睨む。言外に、お前どっか行ってろよっ、と言っているようだ。中学生の少女なぞ、殺すといわんばかりの目だ。
少年はしょぼくれる。そそくさとその場を離れる。
と、
「これ。少年も少年じゃが、お主らもそれはいかん」
ティーガンが少年を呼び止める。
「最初、妾はその少年と話ておった。お主らはそれを無理やり押しのけた。わかるの?」
「……いや、でも」
「確かに少年は粗暴な言動をしておった。じゃが、じゃからと言ってのそう睨んで排除してよいわけでもない」
女の子たちは消沈してしまう。
ふむ……と思案したティーガンは、
「仕方ない。皆で、写真を撮ろう」
一度断った写真を受け入れる。永き時を生きるティーガンにとって、写真は意外に大敵だ。面倒を引き起こす材料にもなりやすい。
けれど、叱ったままで消沈して帰すのも忍びない。
「一度だけじゃ。ここにいる全員で一枚、撮るのじゃ。……ふむ。お主は、ここで。少年はここ。嬢ちゃんはここで――」
「あ、ちょ」
「な、何するんだっ!」
ティーガンは問答無用で全員を並べていく。それから少年が乗ってきた自転車を使って、スマホを固定。
タイムを設定し、中心に移動する。
「ほれ、皆、笑うのじゃ」
カシャリ。シャッター音が響いた。
「それでは、またいつかの」
それからティーガンは逃げるようにその場を離れた。一度、許した手前、他の人にも写真を撮らせてくれと言われる可能性もあったためだ。
そうして、散歩を終えたティーガンは、スーパーで切らした食材などを買い、帰宅した。
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いつも読んでくださりありがとうございます。
面白い、続きが読みたい、ティーガンの普段の生活ってこんな感じなんだ、と思いましたら、応援や★等々をお願いします。そうでなくともお願いします。モチベーションアップや投稿継続に繋がりますので。
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