第4話 国民全員が准貴族のような感じですね

 

司祭に案内された部屋は教室ほどの広さで、ここが宮殿というのも納得の豪華な調度で統一されていた。中央には20人は座れそうなテーブル、その上にはどんなエネルギーか不明のきれいなランプが置かれている。そして天井にはシャンデリア。

 召喚された大広間では気付かなかったが、窓から外を見るとこちらも夜であるようだ。


 男は真ん中の席を勧められ、素直に従う。一応後ろで警戒中の騎士にコートを脱いでも構わないかを確認し、空いている椅子の上にカバンとともに置いてから着席した。


 対面には司祭と呼ばれていた人を含めて4人の宗教関係者が座っている。


「さて、まずは謝罪をいたします。これは私個人の判断によるものです。この国や教会の不手際ではないということをわかっていただきたい」


「えーと、何についての謝罪かわからないので、どう答えたらいいのか……」


「おお、そうでしたな。そこから説明しましょう。この度勇者召喚をこの国で行うのに当たり、国王陛下並びに王族の方々、大司教や巫女長などが謁見を賜う予定でしたが、お仲間、いえ、一緒に召喚した勇者たちがあのような方々でしたので念のため中止したのですよ」


「ああ、そんなこと言ってましたね。え? 失礼ですが、それだけですか?」


「確かに失礼ですな。どれだけ名誉なことはわかっておられないようだ」


「いえ、そういうことではなく、この世界に召喚したこと自体については……」


「神に選ばれたのです。これ以上ない名誉でしょう。羨ましいと思う私はまだ修行が足りないようです」


 男は納得するしかなかった。司祭の発言が本心か建前かはまだわからないが、『神』に関わることに反論すると碌なことにならないのはどのネット小説でも同じだ。感情に任せて反発するにはこの世界の状況がわからない。しばらくは静観するのが吉だろうと男は判断する。

 あくまでも静観であり、昨日までの社畜のように唯々諾々と従うわけではない、そう考えていた。


「わかりました。謝罪を受け入れます。それからこちらも失礼な発言をしたことを謝罪します」


「おお。こちらこそ。いや、物分りのよい方で助かりました。

 さて、それでは改めてあなたの状況を説明いたしましょう。

 ああ、自己紹介からしたほうがよろしいでしょうな。私はプタルカ教会ブレスト王国本部で司祭を務めておりますパーナードと申します。

 こちらの3人は助祭の……」


「ウィックルです」


「キナストです」


「ジューマンです」


 全員男。パーナード司祭は50代、他3名は30歳前後に見える。


「私は金田翔太郎と申します。翔太郎が名前ですが」


「苗字を持っているとはショータロー殿は貴族でしたか。そういえば装いもあの5人と違い、立派な仕立てですな」


「いえ。一般人です。というより、私の国では既に貴族制度はなくなっていますが、国民全員が准貴族のような感じですね」


 安物のスーツを褒められて面映かったが、この苗字に関する反応はネット小説でも御馴染みだったので、男こと金田翔太郎はすんなりと答えることができた。少々のハッタリを混ぜて。


「なんと! 全員が准貴族ですと? そ、それは共和国のような制度でしょうか、それとも商人連合国のような制度でしょうか?」


「う~ん、こちらの世界の制度はわかりませんが、たぶん違いがあるとすれば参政権、つまり政治に口を出す権利を、私の国では18歳以上の全国民が持っているということでしょうね。こちらの国では平民は政治に参加できるのでしょうか?」


「い、いえ、平民が政治に参加するなどありえません。そ、そうですか、なるほど、全員が准貴族ですか。わかりました。では今後はショータロー殿を騎士爵相当の扱いをするように進言しておきます」


「それはそれは。ご配慮ありがとうございます」


「まあ、勇者としての肩書きの方がどうしても大きいのですけどね」


 正太郎は司祭の言葉で話題が脱線していることに気付いた。


「司祭様。その『勇者』について聞きたいのですが、その前に確認させてください。

 ここは、私から見て別の世界、『異世界』なんですね?」


「その通りです。神の御意思により、あなた方は遠い世界から招かれたのです」


 今更の翔太郎の質問にパーナード司祭はハッキリと答えてくれた。

 翔太郎は、大きく溜息をつくとしばらく天井を眺めた。

 そしておもむろに司祭の方に向き直る。その表情は何か吹っ切れたようであった。


「わかりました。ありがとうございます。

 では、勇者召喚について教えてください。特に理由を」


「わかりました。ですが今日は簡単な説明になります。詳しくは正式に勇者と認められた後訓練と同時にこの世界の情勢などを学ぶことになっていますので。よろしいですか?」


「はい。それで構いません」


「わかりました。そうですな、まずはこの大陸のことから……」


 司祭は空中に指で縦長の楕円を描いた。


「ここ、ブレスト王国がある大陸はおよそこのような形と思ってください。そしてその北東にもう一つ大陸がくっ付いている形です」


 そう言って楕円の斜め上に少し小さめの丸を描いた。


「この二つをあわせて『パンドア大陸』というのですが、一般に北東の部分は『北大陸』とか『小パンドア』とか、或いは『魔大陸』と呼び習わしています。そこは魔族に占領されており、長い間人類と敵対しているのです」


「魔族、ですか……」


 やはりテンプレだ、と翔太郎は思った。


「ええ。もともとこの世界には人間、私たちのような『普人種』だけが住んでいたのですが、およそ千年前、『大異変』と呼ばれる突如各地に魔物が大量発生するという事件が起こったのです。

 この大陸は何とか魔族を排除できましたが、北大陸は先ほども言ったとおり魔族に占領されてしまいました」


「すみません、魔族と魔物は違うんですか?」


「ああ、説明が足りませんでしたね。始めに現れたのが魔物です。大量の魔力で獣が変化した存在とも魔力そのものから生まれた化け物とも言われています。その魔物が更に変化して高度な知性を持ちヒト型のものを『魔人』と呼んでいまして、魔物も魔人もどちらも神に仇為す穢れた存在なのでまとめて『魔族』と呼ぶのですが、一般にはヒト型の魔人を魔族、魔物はそのまま魔物と呼ぶ人が多いですね。ああ、ゴブリンやオークなどはヒト型でも『魔物』です。知性が低すぎます」


「魔人ね。ゴブリンにオークですか……」


「おや、御存知で?」


「ええ、まあ。向こうの文献で少し……」


 翔太郎は思った。何というテンプレなのかと。

 だが、ネット小説でも作品ごとに魔物の定義や立ち位置が違うのだ。こちらの世界ではどうなのか、気をつけて判断しなければと気を引き締めることにする。


『それにしても千年前か。日本なら平安末期かな。武士が台頭してきた時代だから……武士って魔族だったのか。なるほど、だから信長は魔王だったのか』


 気を引き締めた割にはいい加減なことを考えていた。




************


新作始めました。二作品あります。是非よろしくお願いします。


『鋼の精神を持つ男――になりたい!』https://kakuyomu.jp/works/16816927861502180996月水金19時投稿予定。


『相棒はご先祖サマ!?』https://kakuyomu.jp/works/16816927861502718497火木土19時投稿予定。


連載中の『ヘイスが征く』は日曜日、週一投稿に変更します。ストックが切れそうなので。

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