第56話
☆☆☆
すべてを話し終えると、照平は神妙な面持ちになり、何度も頷いた。
「悪魔か……」
「あたしの憶測だよ? 照平のお父さんがそんなことをしたのかどうか、本当のところはわからない」
あたしは慌ててそう付け加えた。
「わかってる。話を聞けてよかったよ」
照平はそう言い、そのまま学校を早退してしまったのだった。
☆☆☆
翌日。
照平のことば気になったけれど、あたしと透と梓の3人で悪魔山へ向かっていた。
悪魔山に行ってなにかわかればいいが、下手をするとあたしと同じ事がまた起こるかもしれないのだ。
「いいか、気を強く持つんだぞ」
歩きながら透に言われて、あたしと梓は頷いた。
悪魔は人間の心の隙をついてくる。
マイナス思考や憎しみや悲しみを持っていたら、悪魔に負けてしまう。
そう思い、あたしは一旦目を閉じた。
あたしはもう大丈夫だ。
大事な仲間がいて、あたしを守ってくれる。
あの頃のあたしはもういないんだ。
自分にそう言い聞かせて目を開ける。
さっきまで晴れていた空が徐々に曇りはじめていた。
分厚くて黒い雲が悪魔山の上を覆っているのがみえた。
「フェンスが壊されてる」
山をグルリと囲んでいるフェンスの一部が、大きく破損しているのがわかった。
まるで、両手でフェンスを押し広げたような形に開いていて、思わず寒気がした。
ここまで来て弱気になっちゃダメだ。
そう思って自分を奮い立たせる。
「行こう」
そう言う透に頷き、あたしと梓も足を進めたのだった。
☆☆☆
山道が途切れた時、その前方に広がっていた木々がなぎ倒されていることに気が付いた。
木々は根元から千切られていたり、引っこ抜かれて倒れていたりする。
人間の力でできる技じゃなかった。
人間ならチェンソーなどの道具を使うため、引きちぎられたような跡は残らない。
あたしは異様な光景に唾を飲み込んだ。
恐怖を感じないように努力していても、どうしても恐ろしさを感じてしまう。
あたしの後ろをついてくる梓の呼吸も、だんだん荒くなってきたのがわかった。
雲はさっきよりも分厚くなっているようで、周囲は真夜中のように暗い。
スマホの明かりでどうにか歩けるくらいだった。
足元に気を付けながら前進すると、ようやく木々が開けて広間が現れた。
「あっ……」
中央に見える瓦礫に思わず声が漏れた。
1度目に来たとき、ここには祠がった。
しかし、2度目に来たときはなくなっていた。
そして3度目の今は……。
祠は確かに存在した。
しかし、ボロボロに破損した状態だったのだ。
「ここに悪魔がいたのか……」
祠の前に立ち、透が呟く。
「うん。でも祠が壊れてる……」
あたしはそう返事をした。
感染症が流行った時代は今から千年も昔なのだ。
祠が壊れていてもおかしくはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます