第54話
梓がどこまであたしの話を信じてくれるのかわからなかった。
正直、不安も大きかった。
あたしのしてしまったことが原因で、友達を無くすかもしれないのだから。
「大丈夫だよ。なにがあっても、あたしは友里の味方でいるから」
梓がそう言ってくれなければ、ソレの話なんてきっとできなかっただろう。
あたしたち3人は誰もいない叔父の家で、ソレの話を始めていた。
あたしが妊娠し、出産したことに梓は飛び上がりそうになるほど驚いていた。
「ソレが、叔父さんと叔母さんを食い殺したの?」
梓の質問にあたしは頷いた。
そのシーンを見たことも説明した。
しかし、問題はその後だった。
過去の事件でも、今の事件でも、ソレが願いを叶えた後から行方不明者が増えているのだ。
「田中君は、あたしが産んだソレが殺したのかもしれない……」
ソレは後型もなく人を食い殺す。
一滴の血も残さない。
目撃証言なんてあるはずもなく、証拠もない。
完全犯罪が成立する化け物なのだ。
「で、でも、とりあえず恐怖心を払拭しようってことになってるんだよね?」
話を聞き終えた梓がそう聞いて来た。
「うん……」
だけど、正直そんなことができるとは思えなかった。
悪魔山について知っている人は全国にいるのだ。
その人たちの中から恐怖心を消すなんて、夢のような話だ。
「それならあたしでも協力できるじゃん! 悪魔山は怖くないってブログに書いて載せてあげるよ」
「ありがとう梓」
それがどれだけ効果があるかわからない。
だけど、少しでもなにかしていたかった。
「もう1度悪魔山へ行ってみてもいいかもしれないよな」
そう言ったの透だった。
「え?」
あたしは驚いて聞き返す。
「ことの原点はやっぱり悪魔山だ。行って、なにが起こっているのか調べてもいいと思う」
言いたいことはわかる。
だけど、そこでまた悪魔に妊娠させられたりしたら……?
そう思うと怖かった。
「大丈夫だよ友里。あたしも透も悪魔への願いなんて持ってない。友里の願いももう聞き届けられてるんだから、きっと大丈夫」
梓があたしの手を握りしめてそう言った。
「そうかな……」
あの山へ行ったとき、高いフェンスを乗り越えることも、狭い山道を歩く事も全然怖くなかった。
まるでなにかに操られているような感覚だった。
もし、あの時と同じようなことが起こったら……?
どうしても、そんな風に考えてしまう自分がいた。
「今度は友里1人で行くんじゃない。俺たちも一緒だから」
「透……」
「大丈夫。友里は1人じゃないよ」
2人の言葉に、あたしは大きく頷いたのだった。
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