第52話

そう言ってあたしの頭にポンッと手を乗せる透。



この温もりが消えてしまうのだけは嫌だった。



あたしたちだけでも怖がらず、笑顔でいよう。



そう思った矢先の出来事だった。



「昨日から田中が行方不明なんだってさ」



クラスに入った瞬間聞こえてきた声に、あたしは固まってしまっていた。



「行方不明って? 連絡取れないのかよ?」



「うん。学校が終わってから帰ってないみたいだな」



まさか、あたしの産んだソレがついに動き出したんだろうか?



そんな不安が膨らんでいく。



「大丈夫。きっと無関係だから」



透の言葉にもあたしは頷くことができなかったのだった。


☆☆☆


クラスメートの田中君がいなくなったことは、あっという間に知れ渡っていた。



田中君と仲の良かった子たちが連絡を取ろうとしても、一切繋がらない。



午後になって入って来た情報では、田中君の荷物だけが通学路の途中で見つかったということだった。



「鞄は通学路の途中にある川の中から見つかったんだって」



放課後、梓がそう言ってきてあたしは曖昧に頷いた。



嫌な予感ばかりが胸をよぎるので、あまりその話はしたくなかった。



「ごめん、今日は早めに帰りたいから」



そう言って梓から離れる。



教室を出ようとしたとき、今朝の夢が鮮明に思い出された。



クラスメートたちを次々に食べるソレの姿が、目の前にあるかのような感覚だった。



「ねぇ友里」



そう声をかけられて、驚いて振り向いた。



そこには真剣な表情をした梓が立っていた。



「な、なに?」



胸をなで下ろしてそう聞く。



「最近、なにか隠してない?」



「え?」



そう聞かれて、あたしはすぐに誤魔化すことができなかった。



10年前の行方不明事件、隣県の行方不明事件、そして、田中君の行方不明事件……。



すべてのことで頭が一杯だった。



「叔父さんと叔母さんがいなくなったことと関係あるの?」



その質問にあたしは黙り込んでしまった。



2人がいなくなって落ち込んでいると思われていた方がいい。



けれど、どう返事をすればいいかわからなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る