第9話
☆☆☆
今日の出来事はとても口で説明できるものじゃなかった。
いくら心配してくれる透相手でも、うまく言えない。
すべてが夢だったのではないかと今でも思うくらいだ。
とにかく怪我はなかったし、無事に戻って来ることができた。
そのことに安堵し、あたしは深い眠りについたのだった。
夢の中で、あたしは山の中に立っていた。
鎖の外れた祠の前にいて、咄嗟に逃げようとする。
しかし次の瞬間、周囲が暗闇に包まれた。
足を止めて様子を伺っていると、木々が揺れて鳥が逃げだして行く。
嫌な予感に胸の奥から気持ち悪さがせり上がって来る。
その時だった。
祠の上に立つ大きな影が、あたしを見下ろしていることに気が付いた。
「嫌……」
逃げたくても足が一歩も動かない。
指先の一本すら、動かす事ができなかった。
影の視線にからめとられ、ただ激しく呼吸を繰り返す。
その時。
影があたしめがけて突撃してきた。
「いやああああ!」
悲鳴をあげた瞬間、目が覚めていた。
「友里、大丈夫か?」
心配そうにあたしの顔を覗き込む透がいる。
あたいは荒い呼吸を繰り返して部屋の中を見回した。
ここは透の部屋だ。
月明かりに照らされて見慣れない家具が見える。
それらを確認して、ホッと息を吐きだした。
「怖い夢を見たの……」
「うなされてたよ」
透がそう言い、あたしの額に浮かんだ汗をぬぐってくれた。
こんな風に、夜誰かが近くにいてくれることも、今までなかった。
「透、手を握っててくれる?」
そう聞くと、透はクスッと笑みを浮かべた。
少し子供っぽかっただろうかと、恥ずかしくなる。
「わかった」
透の手の温もりが、さっきの嫌な夢をかき消してくれるようだった。
「ありがとう。こんどはゆっくり眠れそう」
あたしはそう言い、再び目を閉じたのだった。
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