第64話 オーガを討伐せよ②
「オーガのバーカ! このアホ面! マッチョ! 筋肉ダルマ! お前の母ちゃんでべそ! お前等もでべそ! そんなんだからモテないんだぞ! ダッセー!!」
ファッキュー! てな感じで中指を立てる。火に油を注ぐように、怒っているところへさらに怒らせることをしてみた。
そんなわけで魔物相手に悪口をまくし立てているわたしがいた。人相手には絶対に言えません。
言葉が通用するかどうか心配だったけれど、オーガどもは顔を真っ赤にして怒りを露わにした。
理性のない顔が怒りに歪む。わたしを潰してやろうと睨んでいる。
煽ったのはわたしだけどさ、これはかなり怖い。もともと怖い人を怒らせたらもっと怖いのは当たり前だよね。相手は魔物だけど。
「グギャオアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
オーガロードの咆哮。体が震えるほどの振動に襲われる。
でも恐怖はない。もう二度と命を惜しむなんて情けないことをしないと決めているから。
「ついて来いよノロマども!」
わたしは背中を向けて逃げ出した。
襲いくる弓矢は土壁で防ぐ。数えるのも面倒なほどのオーガ連中が一斉に追いかけてくるせいで地面が揺れているように感じる。
ドドドドド! 足音だけで重量を感じさせるな。巨体のくせに速い。こっちは身体能力を魔法で強化しているのに振り切れる気がしない。
走る走る。息切れはしない。魔法って便利だね。ちょっとテンションがハイになってきた。
「グルガアアアアアアア!」
止まれやぁぁぁぁ! というような声に聞こえた。しょうがないので止まってやることにする。
振り返るといきなり止まったわたしにオーガ連中が驚いたように見えた。
土魔法で奴等の足もとにくぼみを作ってやる。速いのは結構だが、その巨体と重量ではすぐには止まれまい。
一体が転ぶとあとはドミノ倒しのようだった。次々とオーガの大きな体が地面に転がっていく。
もちろんここで終わってはただの嫌がらせにしかならない。わたしは次なる魔法を放った。
「お前等みんな燃えてろ!」
ファイアボールを連発し、倒れるオーガにお見舞いする。着弾し、高々と火柱が上がった。
耳を塞ぎたくなるような絶叫が響く。目を逸らさずに火中を見つめた。
オーガはその屈強な肉体のおかげか物理攻撃には滅法強い。その一方で魔法に対する耐性は弱いのだ。
正直、山で魔法はあまり使いたくはなかったんだけどね。ほら、山火事になったら後が大変だしさ。
「グオオ……」
でも、今回はロードがいる。後片付けが面倒だなんて言っていられない。
火の中でもうごめく影。オーガロードだろう。やはり普通のオーガと違って魔法でもある程度の耐性を持っているらしい。
「もう一丁喰らえ!」
無詠唱で追撃を放つ。
しかし今度はオーガにではなくその下、地面へとぶつかる。
すぐに風魔法でオーガ達を取り囲む。結界を張るようにして重ねがけしていく。
轟音が山を振るわせた。地面の中に仕込んでいた火の魔石が爆発を生み出したのだ。
爆発は炎に包まれていたオーガを飲み込んだ。爆風が漏れださないように必死で風魔法を展開する。
「ぐ……ぬぅ……」
ヨランダさん、ちょっとこれ火力が強過ぎじゃないですかね?
予想以上の爆発の威力に魔力がかなり持っていかれる。これ、このまま使ってたら山一つくらい吹き飛ばしていたかもしれんね。
爆発が収まるまで魔力を注ぎ続けた。常に上位レベルの魔法を使ったためか、チートアイテムがあっても魔力の消費を感じる。
ようやく落ち着いた頃には、数十体はいたであろうオーガは全滅していた。
「終わった~……」
さすがに今回は疲れた。脱力して地面に腰を下ろす。
ヨランダさんにもまいったもんだ。あの火の魔石には爆発の術式が刻まれているのは聞いていたけれど、環境破壊レベルだなんて言っていなかった。もっとお手軽なもんかと思っていたから気軽に使っちゃったじゃないか。
これはちゃんと報告しておこう。いや、強気には言えないけども。
よっこいしょと十七歳とは思えないかけ声で立ち上がる。
……そこへ、矢の一撃が迫ってきていた。
「ぐぅっ!?」
反射的に体をねじってかわした。まだ身体能力強化の魔法の効果が切れてなかったおかげで命拾いをした。
「誰だ!?」
自分で言っておきながら誰だも何もない。この攻撃はさっきも受けていたのでわかりきったことだった。
「グケケケケケケケ」
矢が飛んできた方向を見れば、耳障りな笑い声を上げるオーガロードがいた。そいつの周りには先ほどと同じように何十体ものオーガが守るようにして囲んでいた。
なぜ生きている? さっきの爆発、確かな手応えがあったのに。
爆発の跡に目を向ける。たくさんの肉片が転がっていた。確かに何十体というオーガを仕留めた証拠である。
視線を逸らしたのを察知したのかまたもや弓矢での攻撃が始まった。
土壁で防ぐ。だがオーガの怪力は並みではない。何発も撃ち込まれれば崩されてしまう。
反撃にと石の弾丸を撃ち込んだ。そこでどんどん接近してきているオーガに気づく。
弓矢で足止めをして、こん棒を持ったオーガでとどめを刺すつもりなのだろう。
腰に差した剣に手をかけようとして、これじゃあ物量の差でやられてしまうかと思いとどまる。
接近戦を挑むのは無茶だ。距離を取るのがわたしの戦い方を考えても合っている。
「グケケケケケケケ」
うるさい! そもそもなんでロードは生きていたんだ? あの爆発の中に奴はいたはずなのにっ。
矢を防ぎ、ぶん回すようなこん棒の一撃をかわす。どれもギリギリになってきた。
いつの間にか囲まれている。上位魔法は無詠唱とはいえタメが生じる。飛行魔法で空に逃げようにも弓矢と魔法攻撃で簡単に撃ち落とされるだろう。
とはいえ下位魔法では倒すのに時間がかかってしまう。一体や二体ならともかく、数十体はいるであろう敵に対しては隙を作りかねない。
大きく後ろへと飛んで距離を取る。背後からオーガがこん棒を振り下ろしてくる。
こん棒をかわしてそのオーガの肩へと乗った。さらにそこから跳躍する。
鞄に手を突っ込んで煙玉を手に取る。しびれ効果か眠り効果なのか確認している余裕はない。
火をつけてオーガどもの中心へと投げつけた。すぐにもくもくと煙が上がる。
「グオオ?」
少しの間オーガどもは変化のない煙玉を見て不思議そうにする。しかし効果が出てきたようで、オーガの巨体が地に倒れいびきをかき始めた。
「ナイス眠り玉」
この間に大岩を魔法で生成する。これでオーガロードを倒してやるのだ。
だが、その大岩に風魔法が嵐のように襲いかかる。まだ固定化をかけていないこともあってか砕かれてしまった。
「何!?」
まさかの事態に目を見開いて驚いてしまう。その視線の先にはにやついた笑みをしたオーガロードが魔法を放った体勢にあった。
魔法が使えるなんて特別な魔物なのだろうとは思っていた。けれどこっちの魔法を壊してしまえるほどとは思っていなかった。
そんな驚愕を、今していても仕方がなかった。
オーガロードは突風を起こし煙を吹き飛ばす。それから命令を下し、わたしに向かってオーガどもを突撃させた。
わたしはといえば反応が遅れている。その間にもオーガは迫っていた。
やらなきゃやられる! わたしが腰の剣に手をかけた時だった。
「ピンチみたいだな黒いの」
平常時のような声色で、鋼鉄の鎧を身につけた男がオーガの一撃を受け止めていた。
「……サイラス?」
「おう。手助けが必要か?」
Aランク冒険者の彼は、そう言ってニヒルに笑っていた。
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