(二)-8

 古参の刑事は椅子の背もたれに背中を押しつけて背をそらした。何か思うところがあるようにも見えた。今ではすっかりベテランになった彼にも、きっと若い頃にそういう何かがあったのかもしれない。

「そうですね。彼、ミュージシャン志望だったんです。卒業してからもしばらく会社員しながら音楽活動すると言っていました。でも実際にはほとんどそんなことはしていませんでした。ただの音楽が好き、みたいな」

 そう。彼は学生時代には情熱をもっていた。しかし私は、社会人になってからはそのことを忘れようとしてきたし、最近では実際にもうすっかり忘れていた。

 でも、刑事さんに話をすることで、学生時代の記憶がだんだんと蘇ってきた。


(続く)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る