第15話

☆☆☆


大西さんがギャル3人に呼びだされた話は学校中の噂になっていた。



あれだけ堂々と連れて行ったのだから当然だった。



それでも、ギャル3人と仲良くなって戻ってきた姿を見た生徒たちは、大西さんの性格が良かったからギャルたちが黙ったのだと思い込んだみたいだ。



「実際は噂とは違うんだろ?」



ひと気のない廊下の隅まで移動して来て柊真が聞いた。



「え?」



「後を付けて確認したんだろ?」



「あぁ……うん」



あたしは頷きながらも柊真から視線を外した。



あの異様な雰囲気を思い出して全身に鳥肌が立った。



「なにを見たんだ?」



そう聞かれてあたしはゴクリと唾を飲み込んだ。



「キス……してた」



「え?」



「昨日大西さんとキスしていた男子が、女子3人にキスをしたの。そしたら3人とも急に大人しくなっちゃって、教室へ戻った時にはもうあんな状態だった」



話し出したら止まらなくて一気に説明した。



「キスか……」



柊真がなにか考え込むように呟いて険しい表情になった。



「なにがどうなってるのか全然わからない。だけど、奏の彼氏は言ってたの。大西さんは女王様だって……」



「女王様?」



「そう。冗談とか、そんな風じゃなかった。本気で女王様だと思ってるように聞こえた」



あたしの説明に柊真は首を傾げる。



だけどそれ以上の説明のしようがなくて、あたしは黙り込んでしまった。



あのキスは普通じゃない。



だけど、じゃあなにが違うのかと言われれば説明できなかった。



今回は大西さんはなにもしていないことだって事実だ。



考えれば考えるほどわからなくて、頭を抱え込みたくなった。



「とにかく、大西さんには気を付けた方がいいと思う」



今のあたしにはそのくらいのことしか言えないのだった。


☆☆☆


授業が開始されると少しだけ心の平穏を取り戻していた。



後ろから聞こえてくるのはペンを走らせる音だけ。



他の生徒たちもギャルたちの異変を忘れてしまったかのように熱心に授業に聞き入っている。



こんな日常的な一コマが嬉しいと感じたことは初めてかもしれない。



先生が説明を続けている中、近くで羽音が聞こえてきてあたしはノートから顔を上げた。



みると開け放たれていた廊下側の窓から一匹の蜂が迷い込んできていた。



すぐ目の前を飛ぶ蜂に驚いて思わず椅子の音を立てて立ち上がっていた。



「どうした相沢?」



「ごめんなさい、蜂がいたので」



蜂は教室中央へと移動して、縦横無尽に飛び回っている。



頭上をブンブンと飛び回る蜂に生徒たちは授業所ではなくなってしまった。



刺さない虫ならいいけれど、蜂は下手に動くと刺して来る。



女子生徒たちは自分の机から離れてできるだけ近づかないように距離を置いた。



「蜂か、仕方ないな」



先生はそう言い、教室後方のロッカーから殺虫スプレーを取り出した。



「ちょっと窓を開けてくれ」



スプレーを使う前に窓の近くにいる生徒に声をかけた。



先生に言われた通りに生徒たちが動き、窓が開け放たれる。



そこから外へ出てくれれば良かったが、蜂も興奮しているのか教室中をグルグルと飛び回っているだけだった。



先生が殺虫スプレーを蜂へ向けてかざした、その時だった。



「ダメ」



とても静かな声が聞こえてきていた。



それはあたしのすぐ後ろから聞こえて来た。



振り向くと大西さんが蜂の動きを追い掛けて視線を彷徨わせている。



ダメってどういうこと?



そう質問する暇もなく、男子生徒2人が先生にとびかかっていたのだ。



それは大西さんに声をかけた、あの生徒2人で間違いなかった。



「うわっ! なにするんだお前たち!」



2人に飛びかかられた先生は横倒しに倒れ、スプレーが音を立ってて床に転がった。



その隙に蜂は窓の外へと逃げていく。

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