第17話:児童誘拐
聖歴1216年1月19日:エドゥアル視点
「エドゥアルは女も男も関係なくモテモテじゃな」
「男として魅力的だからモテているわけではない。
彼女たちは途轍もない不幸を経験したから、自分たちを護ってくれる強い人間を必要としているだけだよ、ラファエル」
「エドゥアルは自分を過小評価し過ぎているのじゃ」
「強い事とモテることは別なのだと知っているだけさ。
もうこんなどうでもいい話は止めるのだ、ラファエル。
俺たちには、こんな話をする前に、やらなければいけない事があるだろう」
「分かったのじゃ、確かにルイーズ教団がさらった子供たちを助ける方が大切じゃ」
俺はラファエルと一緒にニースの町に来ていた。
7つの経穴を突いて魔力を流す『七穴傀儡支配』で、俺に絶対服従させているルイーズ教団の聖職者たちから、教団が再び悪事を始めると知らせがあったからだ。
今回ルイーズ教団が行った許し難い悪事は、何の罪のない子供たちを誘拐して、奴隷として他国に売ると言う、信じられない最低最悪の行いだった。
「今ならまだ心や身体に傷を負っていない可能性もある。
これほど悪事を働く連中を相手にコソコソする必要はない。
管理神に魔力を悟られない範囲なら、少々目立っても構わない。
ただし、さらわれた子供を見落とす事だけは、絶対にあってはならないから、聖職者も犯罪ギルドの連中も殺すなよ」
「何度も言わなくても分かっておるのじゃ。
いつも通り、四肢を粉砕して半殺しにすればいいのじゃろう。
まあ、万が一死んでしまったら、エドゥアルが蘇生させてくれ」
本当はここでもっと厳しく禁止すべきなのだが、今回の子供を誘拐して奴隷として売るような下劣な行為は、俺だってぶち殺したいくらい激怒している。
ラファエルは元々強大な力を持っているゴッドドラゴンだ。
人間に化身した状態では、繊細な力加減をするのはとても難しい。
まして怒りに我を忘れそうになっている状態では、つい力が入ってしまうだろう。
「しかたがないな、今回だけだぞ」
「分かっているのじゃ」
ドッカーン
「召喚聖者ルイーズの教えを広めるべき聖職者が、子供を誘拐して他国に売ろうとするなど、絶対に許されない悪事だ。
欲に目がくらんだ召喚聖者ルイーズが見逃そうと、俺が許さん。
この世界を救った誇りを忘れない本当の召喚聖者に成り代わって成敗してやる」
「うっわあああああ、てきだ、敵が襲っていたぞ」
「家族が子供を取り返しに来たぞ、直ぐに口を封じろ」
「だまれ、だまれ、だまれ、おろかもの。
我々ルイーズ教団は親を亡くした不幸な子供を保護しているだけだ。
子供たちを他国に売るのではなく、優しく育ててくれる里親に渡すだけだ」
「じゃかましいわ、腐れ外道ども。
欲に目がくらんで、自分の名前を使って悪事を重ねる信徒に罰も下さない、堕した召喚聖者ルイーズと俺を一緒にするな。
子供たちを助けるためなら、この手を血で染める覚悟はできているのだ。
腐れ教団から賄賂をもらって、領民を他国に売る領主が邪魔をすると言うのなら、教団だけでなく領主一族も滅ぼしてやる。
真の勇者エドゥアルと戦う覚悟のある者はかかってこい」
俺の名前を前面に出す事で、助けた女子供に報復が行かないようにする。
ゴッドドラゴンのラファエルが真の姿を見せる事ができるのなら、もうそれだけで誰も報復など考えないのだが、今はまだその方法が使えない。
もう少し、後1カ月もすれば、ラファエル単独でも管理神に勝てるだろう。
それまでの間だけ、俺の性格には合わないが、目立つ方法を使うしかない。
「あの者は勇者ではない。
本当の勇者は教団が認めたガブリエルだけだ。
我らには、召喚聖者ルイーズの生まれ変わりであられるルイーズ様と真の勇者ガブリエルの加護がある。
恐れる事など何もない、安心して偽者を殺すのだ」
高位聖職者の服装をまとったブタがほえている。
俺とラファエルがその気だったら、何もしゃべらせずに叩き伏せる事ができる。
だが、ルイーズ教団が腐りきっている事を国中に広めるためには、醜い言動をさせた方がいいと考えて、好きにさせているのだ。
「ギャアアアアア、助けてくれ、許してくれ、俺は命じられただけだ」
「俺も命じられてやっていただけだ、やりたくてやっていたわけではない」
「しかたなかったのだ、ルイーズ教団に命令されてしかたなくやっていたのだ」
「教団だ、ルイーズ教団が全部悪いのだ」
「だまれ、だまれ、黙れ、すべては召喚聖者ルイーズ様の思し召しだ」
ラファエルが四肢を粉砕して激烈な痛みを与える。
殺して欲しいと泣き喚くくらいの激痛が腐れ外道どもをおそう。
だが、俺は完璧に回復させるから死ぬ事などできない。
回復した直後にまたラファエルが四肢を粉砕して激烈な痛みを与える。
終わる事のない激痛の無限地獄に耐えらずに全てを白状する事になる。
「やっぱりあの噂は本当だったのだ」
「ルイーズ教団が何の罪もない人を奴隷にして他国に売っていたのだ」
「だったらルイーズ教団が勇者だと言っているガブリエルも絶対に偽者だ」
「召喚聖者ルイーズの生まれ変わりだと言う大聖女ルイーズも偽者に違いない」
「自分の娘を神にするために教皇が仕組んだ悪事に違いない」
わざと大きな音が出るようにしたのは、町民に教団の悪事を知らせるためだった。
それが上手くいたようだが、ここで終わるわけにはいかない。
町民たちを苦しめる存在はルイーズ教団だけではないからな。
町民たちを苦しめる存在すべてに牽制しておいた方がいい。
それに、どうせならもっと町民の意識を高めておきたい。
「召喚聖者ルイーズの名前を使って私利私欲をむさぼった背教徒ども。
お前たちと一緒になって子供たちを売ろうとした者の名を言え。
これだけ大掛かりに動いていて、領主が知らない訳がないだろう。
領主に賄賂を渡して見逃してもらっていたのだろう。
子供の誘拐に領主も加担していたのだろう、白状しろ」
「ヒィイイイイイ、その通りです、領主も知っていました」
「はい、その通りです、領主が協力していました」
「子供たちを城壁内に入れる時も、港に船に乗せる時も、金を払えば見逃してくれました、領主が協力していた事に間違いありません」
「まて、もう1度言え、子供たちを船に乗せて他国に売ったのか?!」
「ヒィイイイイイ、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
「ヒィイイイイイ、ゆるしてください、ゆるしてください、もうゆるしてください」
「許して欲しければどこの国の誰に子供たちを売ったのか言え。
嘘を言っても隠そうとしても許さん。
今まで与えた痛みなど足元にも及ばない激烈な痛みを与えてやるぞ。
いや、いい、時間がおしい。
ラファエル、そいつをこっちに放ってよこせ。
精神が崩壊するほどの痛みを伴うが、絶対に自白する魔術を使ってやる」
「分かった、ほうれ」
ブッン、ズザザザザザ。
「ヒィイイイイイ、フルンバルド王国です、フルンバルド王国の側妃、エルシーリア様に23人の子供を売りました。
それだけです、他の誰にも売っていません、ウソじゃありません。
他の国には今日の午後に売る事になっていたのです、信じてください」
「ラファエル、俺は子供たちを助けにフルンバルド王国に行ってくる。
子供たちを助けるためなら、フルンバルド王国を滅ぼす覚悟だ。
もしフルンバルド王国から他の国に転売されていたなら、その国に行って、その国を滅ぼす事になってでも助け出す。
後の事を頼めるか」
「すべて妾にまかせるのじゃ。
生かさず殺さず、なに1つ隠す事ができない程の拷問を繰り返してやる。
エドゥアルが帰ってくる頃には、ルイーズ教団も壊滅しておいてやる。
だから安心して今直ぐ子供たちを助けに行くのじゃ」
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