第15話:勇者ガブリエルたちは④

 聖歴1216年1月13日:ガブリエル視点


「ファイア・アロー、ファイア・アロー、ファイア・アロー」

「ギャアアアアア」

「おで、よわくなった、おで、よわい」

「しにたくねぇえええええ、たすけてくれぇええええ」

「盾役のくせに逃げるのじゃねぇ、役立たずが」


 腹がたつ、腹がたつ、腹が立つ。

 どいつもこいつも役立たず過ぎる。

 教団が派遣した高位聖職者だと言う連中の回復呪文が、まったく役に立たない。

 魔術師協会が高位魔術師だと派遣してきた連中の攻撃魔術も、無力すぎる。

 大金を払って集めてきたという冒険者たちも、盾代わりにもならない。


「まったくお話になりませんな、勇者を名乗るガブリエル殿。

 私の配下の中で1番若い騎士でも、この程度のモンスターは1人で斃せますぞ。

 それを30人以上でパーティーを組んでも斃せないとは、情けなさ過ぎますな。

 この程度のモンスターも斃せずに、よく勇者を乗れる。

 自分が口にしてきた事を恥ずかしいとは思わないのですか、自称勇者殿」


 なんだと、俺様をバカにしているのか?!

 たかだか騎士の分際で、勇者である俺様に偉そうな口をききやがって。

 王家が正使の役目を与えていなければ、背中から斬ってやるのに。

 今回も前回も、勇者である俺様に対する敬意がまったくないぞ。


「サポートの来ている連中が弱すぎるのだ。

 能力のあるサポート役さえいれば、俺様はダンジョンを攻略できるのだ」


「ほう、サポート役さえいればダンジョンを攻略できると言うのですな。

 だがそれでは、勇者を名乗るガブリエル殿がダンジョンを攻略したとは言えない。

 それは、サポート役の方がダンジョンを攻略したと言うのだ、この恥知らずが!

 それぞれ10名もの教団高位聖職者と魔術師協会の高位魔術師を集め、王都の冒険者ギルドから10名の高位冒険者を集めて、13階層のモンスターも斃せないだと。

 それでよく今も勇者を名乗れるな、嘘つきの恥知らず」


「ウォオオオオオ、しね、しね、しね、しね、死にやがれ。

 俺様をバカにする奴は誰であろうと許さねぇ。

 ブレイブ・デスパレート・スラッシュ」


「隊長、騎士隊長殿、おのれ、謀叛人」


「てめえら、殺せ、王国の連中を皆殺しにしろ。

 1人でも逃がしたら王国に知られるぞ」


「おのれ、やはりお前は勇者ではなかったのだな」


「じゃかましいわ、俺様が勇者だ。

 王家であろうと、勇者である俺様に逆らう事は許さん。

 ブレイブ・デスパレート・スラッシュ」


「ギャアアアアア」


「なにしていやがる、さっさと生き残りを始末しろ。

 こいつらを逃がしたら、教団も魔術師協会も冒険者ギルドも滅びるのだぞ」


「やかましいわ、俺たち冒険者は無関係だ。

 勝手に殺し合っていろ、逃げるぞ」


「ルイーズ、クロエ、魔力を惜しむな、さっさと殺せ。

 全員殺せ、騎士も冒険者も皆殺しにしろ。

 アーチュウ、盾になって誰も逃がすな、てめぇが死んでも逃がすんじゃねぇ」


「ホォオオオオ、ホッホッホッホ、何を慌てているの、ガブリエル。

 あなたが途中でブチ切れる事など最初から分かっていた事よ。

 弱すぎる勇者の代わりに、召喚聖者の生まれ変わりであるこのわたくし、大聖女ルイーズが勇者パーティーを率いてあげましょう。

 聖職者も魔術師も力を合わせて騎士と冒険者を殺しなさい」


「キィイイイイ、なに偉そうに言っているのよ、偽者の召喚聖者のくせに。

 ガブリエル、全部あんたが弱いから悪いのよ。

 あんたさえ強ければ、こんな事にはならなかったのよ。

 ここで寿命が尽きる事になっても、ブレイブ・デスパレート・スラッシュを使って騎士と冒険者を皆殺しにしなさい。

 ファイア・アロー、ファイア・アロー、ファイア・アロー」


「じゃかましいわ、クロエ、お前は魔術を使っていればいいのだよ。

 くそ、くそ、くそ、くそ、くそ、思い知ったか。

 何が王国の正使だ、たかだか騎士の分際で偉そうにしやがって」


「キィイイイイ、何時まで死体なんか蹴っているのよ。

 そんな事してないで、残っている騎士と冒険者を殺しなさいよ、勇者でしょ」


「やかましいわ、黙っていろ、クロエ

 どうだ、これで俺様の強さが分かっただろう、騎士隊長様よ。

 本気にさえなれば、俺様が最強なのだ。

 ただ、こんな階層で、命懸けの必殺技を使うのがもったいないだけだ。

 勇者の俺様が命懸けで戦わなければいけないのは、邪神だけだ。

 モンスター程度に命を懸けて戦うわけがないだろう、分かったか」


「ホォオオオオ、ホッホッホッホ、本当にみっともないわね、ガブリエル。

 いつまで死体相手に偉そうにしているの。

 勇者様だと偉そうに言うのなら、残っている騎士を殺しなさい。

 あなたの専属盾役が騎士に殺されかけているわよ。

 専属盾役があの程度では、あなたの強さも知れたものね」


「じゃかましいわ、黙っていろ、ルイーズ。

 たかだか王国騎士ごとき、俺様が相手するわけがないだろう。

 専属盾役など、いくらでも代わりがいるんだよ。

 ルイーズ、クロエ、お前らも同じだからな。

 これ以上俺様をバカにしやがったら、ブレイブ・デスパレート・スラッシュを喰らわすが、その覚悟があるのか」


「ホォオオオオ、ホッホッホッホ、いつでも相手になって差し上げると言いたいところですが、さすがに勇者の必殺技と正面から戦うわけにはいきませんわね。

 いいでしょう、この国を支配するまでは手を組んで差しあげますわ。

 感謝しなさい、ガブリエル」


「キィイイイイ、仕方ないわね。

 お父様が魔術師協会の会長になるまでは協力してあげるわ。

 その代わり、騎士や冒険者から奪う物は山分けだからね」


「おのれ、卑怯下劣は嘘つきどもめ。

 この場で皆殺しにして騎士隊長殿の仇をとってやる。

 騎士団、他の者は無視して構わん。

 ただひたすらガブリエルを狙え、騎士隊長殿の仇を取るぞ」


「「「「「おう」」」」」


「やれ、やれ、さっさとやれ、騎士たちを殺せ、何をやっている。

 アーチュウ、いつまで倒れていやがる。

 さっさとここに来て俺様の盾になれ、このグズが」


「「「「「ブッヒ、ブッヒ、ブッヒ、ブッヒ、ブッヒ」」」」」


「ホブオークだ、ホブオークの群れだぞ」


 くそったれが、ここに来てホブオークの群れだと。

 俺以外の連中がホブオークに勝てないのは分かっている。

 俺様が本気になれば、ホブオークなど簡単に斃せるが、ホブオークごときを斃すために、勇者である俺様の命をすり減らすわけにはいかない。


「アーチュウ、ホブオークを騎士たちの方に誘導しろ。

 お前なんぞ死んでも構わないから、絶対に成功させろ、いいな」


「おで、やる、おで、ゆうしゃのたて、ホブオーク、ひきつける」


「ルイーズ、クロエ、支援魔術を寄こせ。

 今なら聖職者や魔術師をおとりにして逃げられる。

 さっさと快足をよこすんだ、この前みたいに1人で逃げるんじゃねぇぞ」


「ホォオオオオ、ホッホッホッホ、わたくしさえ生きていれば、勇者など不要よ。

 生き残りたければ、出し惜しみせずブレイブ・デスパレート・スラッシュを使えばいいじゃない。

 では、ごきげんよう、勇者ガブリエル」


「キィイイイイ、1人で逃げんじゃないわよ、ルイーズ。

 でも、勇者を助けないのは賛成よ。

 お前なんて何の役にも立たないどころか、足を引っ張るだけよ、ガブリエル。

 偽物を仕立てるのなら、勇者はお前でなくてもいいのよ、ガブリエル。

 平民どもの噂では、エドゥアルの方がよほど勇者らしいわ。

 私たちのためにここで死んでちょうだいね、できそこないの勇者ガブリエル。

 では、さようなら、勇者ガブリエル閣下」


「おのれ、おのれ、おのれ、おのれ、おのれ。

 ゆるさん、ゆるさん、ゆるさん、絶対に許さんからな。

 俺様よりもエドゥアルの方が勇者にふさわしいだと言ったな。

 その言葉、絶対に許さんからな。

 ルイーズもクロエも教皇も魔術師も王家も皆殺しにしてくれる!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る