第131話 とあるティーハウスで

「王族に何か危害を加えようと考えてるのは確かなんだね?」


アトリアの言葉に僕は頷く。隣のミラも真剣に話を聞いていた。


今日は始業式ということもあり、聖女からの接触も特には無かった。その為、アトリアとミラ、シャウラを連れて、近くのティーハウスにお茶に来ている。

ここのティーハウスは社交ができる開けた一階と個人の雑談ができる個室が並ぶ二階がある。

二階の部屋を一部屋借りてそこで話をすることになった。

ちなみにリオはというと夏休みの課題が終わってないので学園に居残りさせられている。


「多分一番の狙いは王太子だけど、第二王子がたまに来るところを狙ってくるかも」


第二王子も引きこもりとはいえ全くの不登校ではない。単位が取れるくらいには学園に来る。

特に一番来る可能性が高いならばテストの日でゲームでも古の魔族たちはテストの日を狙ってきたはず。

今回は少し状況が変わっているので必ずとは言えないけど。


「テスト時期ならまだ少し後かな…」


「予定通り先に聖女様を排斥するべきですね」


ミラがそう言うとアトリアが少し複雑そうな顔をしてミラを見た。


「もう、私が聖女になる件は了承しましたよね?」


ミラが頬を膨らませると今度は気まずそうにする。

一応了承してくれたみたいなんだけど、どうやらまだ納得はしていないらしい。

まあ僕がアトリアの立場でも心配だから気持ちは分かるんだけど。


「やっぱり聖女が挿げ替われば古の魔族も混乱するかもしれませんし、そうしたら当初の予定通り王太子より先に私を殺しに来るかもしれません」


ミラの言う通り目的が分散すれば向こうの戦力も分散するかもしれない。

ミラに集中したらしたで一網打尽にできるかも(ユピテル案だから現実的かは怪しいけど)


「学園以外ではユピテルの弟を護衛兼執事に付けるから」


「そういえばまだ会ったことないけど大丈夫なのかい?その子」


アトリアに言われてイザールの行動を思い返してみた。

僕の部屋に入り浸り終始よく分からない話をしてから帰ったイザール。伝える事項を悉く忘れていたイザール…。


「…うん、まあ会って話してみるといいよ」


とりあえず濁すしかなかった。まあここ数日ユピテルにしごかれているはずだし、護衛のほうは全く問題がないはずだ。


「もう少ししたら会わせられるから、そしたら護衛として雇って欲しい」


僕がそう言うとミラは頷いた。まあイザールも悪い子では無いのは確かだ。

本当ならカフのほうが良かったんだけどね。まあ聖女のほうにイザールをつけて聖女に惚れても面倒か…。

イザールの正体や性格についてはミラも分かっているし、そこは大丈夫だろう。


「ちなみにどんな子か聞いてもいいかな?」


「うん?まあ明るくて元気かな…ちょっとチャラいけど…」


「チャラい?」


アトリアが首を傾げる。うーん…チャラいって言ってもあんまり通じないか。なんて言ったら良いんだろう。


「軽薄な感じがする…?というか…」


「それ大丈夫なのかい?」


「うん…、まあ言葉や行動からはチャラい感じがするけど…、実力は確かだし…執事としても最近は成長しているよ」


最初よりはマシになってきたので嘘はついてない。

にしてもアトリアは心配みたいだ。どうやらミラのことが相当好きなようだ。

心配しなくてもイザールがなんかしたらユピテル経由で分かるんだけど、そんなことは言えない。


「とにかく心配しなくても大丈夫だよ」


僕がそう言って笑いかけるとアトリアも一応は納得したみたいだ。


「とりあえずミラが聖女になることに関してはそっちで進めて欲しい。アトリアとミラに任せるよ。僕は僕で聖女を一応説得してみる」


「告白を断られて説得に応じるかな」


「…、話してみないとわからないかな」


まず聖女が僕に婚約を申し込んできた理由が分からないから何とも言えない。

聖女だって命は惜しいだろうから自分の身が危ないとなれば多少こっちへの協力はしてくれると思う。

この国を出ないといけないような事態になるのは申し訳無いんだけれども。

ダメだったら無理にでも連れ出すしかないだろう。偽者というような扱いになってしまえばどうなるか分からないのだから。


まあまずはミラが正式に聖女と認められるかどうかが関門なんだけれどね。


「聖女になる条件とかの方は大丈夫そう?」


僕がそう言うとミラは頷いた。

この後で聞いた話だが精霊との対話は一日に限りがあるらしいので情報は少しずつ聞いているらしい。

聖女になるために光の精霊の加護を受けたいという話もしたそうだ。

ちなみにミラのそばにいる精霊で一番位が高いのは水の上級精霊らしく、話はその子としている。


「特定の…光の精霊の加護を受けることは許されなかったのですが…加護がなくても精霊と対話できるなら聖女に近い力は扱えるみたいです」


「…精霊と対話出来ることがなんとか証明出来れば他の魔法も扱えるし、歴代最高の聖女になれるかもしれないと話していたんだ」


「うまくいけばですけどね」


アトリアの言葉にミラが苦笑いする。ミラも多少の不安があるのだろう。

ユレイナス家としても支援できたらいいのだけど、婚約者としてアトリア…、エリス家がバックアップするのが一番当たり障りがない。

ミラがエリス公爵に利用されたりすることがないようにアトリアなら守ってくれるだろう。


「うまくアピールできる場を考えてるんだ。まあ私とミラに任せてほしい」


アトリアがそう言いながら胸に手を当てた。とても頼もしい。


「ユレイナス様、少々宜しいでしょうか」


そこで、個室のドアがノックされて店員の声が聞こえてきた。

注文の品を持って来る時以外は来ないはずだけれど。


「おや、少し早かったですね。…リギル様、部屋の中に入れて下さい」


部屋の中に入れる?


「なんでしょうか?」


とりあえずユピテルの言葉に扉の外にいる店員に声を掛けた。


「ユレイナス様とお約束があるという方をお連れ致しました」


ユピテルをちらっと見ると、ユピテルがにこ…と笑った。どうやらユピテルが呼んだ誰からしい。

アトリアを見遣ると、大丈夫と頷いたのでユピテルに扉を開けさた。

開いた扉の前に立っていたのは……


「ユレイナス公子様、突然の訪問失礼致します」


見たことのある藍色の髪と藍と透明なオッドアイのカフだった。

ユピテルがカフを部屋の中に入れると、カフの後ろから黒いフードを被った人物が顔を出した。

ユピテルはその人物も部屋に入れるとドアをそっと閉じた。


「本日はお話があって参りました」


カフがちらっとフードの人物を見ると、彼は被っていたフードを取って見せる。

瑠璃色の長い髪に切長の瞳、眼帯に端正な顔立ち。

その人物はどう見ても間違いなく、


「歓談の場に大変失礼する。急ぎの話がある」


“古の魔族”、レグルス・アステロイドだった。



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