第128話 旧王族の生き残り

「ああ、魔族の忌子ですか…、確かに獣に近い魔族は魔力が強いほど人型から離れるのでそういった偏見は有りますね」


「そぉなんだ…?」


「まあ人型がデフォルトの種族はそういった獣に近い種族こそ下等な魔族だと言ってますが。人間が獣人を厭うように」


イザールと話した件についてユピテルからも話を聞いていた。

帰ってきたユピテルをすぐ部屋に呼びつけてイザールは部屋から追い出した。

今ごろは休憩してるだろう。まあ僕の部屋でもずっと一方的に話してただけだし休憩していたようなもんだけど。

ユピテルは未だ事務作業に追われてる僕と話しつつ、お茶を淹れてくれる。


「…、なんか魔族社会も複雑なんだね…」


「ええ。まあ獣系の種族は力を誇示するのが好きなので仲間内の殺し合いとか珍しくはありません。弱い個体を殺して強い遺伝子のみ残そうとしたり、単純に虐殺が目的なり理由は様々ですが…」


魔族間では割と法律がないというか、機能しないので魔族同士での殺し合いだと罪になりにくいらしい。魔族は魔族のコミュニティだからだ。

それでも人間のいる国にいる魔族になら適応されるのだけど。


「というか竜ってやっぱりトカゲに近いの?爬虫類?」


「は?」


ユピテルからびっくりするくらい低い声が出た。こわい。この話題は地雷だったみたいだ。

笑ってるが目が笑ってない。話を逸らそう。


「……、ヴェラとはまた一緒にお菓子作ったの?」


「…ああ、いえ。買い物はヴェラ様とヴェラ様の専属メイドと行きましたが、私は料理の才能がないそうなので……」


ヴェラの専属メイドと言えば乙女ゲームらしく本来は執事(それも攻略対象)になるはずだったのを僕がすり替えたから配属されたベルというメイドだ。

そういやイザールが可愛いって言っていた。さっき。本当に惚れっぽいんだな。


「公爵様からヴェラ様がお一人でお出かけの際は護衛を四人付けるようにと使用人共々仰せつかっているのですが…流石に四人は目立つのでヴェラ様は嫌らしく抗議してらして……、困った公爵様はリギル様がお屋敷にいる際に限って私を伴うことで護衛が私一人で良いことになったのです」


「あ、そういう経緯なんだ」


「私も今日ヴェラ様からその話を聞いて出かける際にイザールに一緒に伝えるよう申したのですが」


「あの野郎」


全くそんなことは言っていなかった。忘れたな絶対。

伝言くらいは正確に伝えてくれ、マジで。


「ちゃんとメモするよう指導しておきます」


ユピテルはため息を吐く。てか、ユピテルが指導って言うとなんか怖いな。ボコされそう。

何故かイザールやカフ相手には容赦ないようなイメージがある。


「…ところで、ヴェラ様が外出の際、アリオト侯爵の御子息が接触して来ましたよ」


「…は?アリオト侯爵だって?」


アリオト侯爵家、というのは侯爵家でも力のある一族で旧王族の一族だ。

というのも、プラネテス王国は以前は違う国で古の魔族に滅ぼされかけ、実は十数年ほど支配された期間があった。

その後、勇者と聖女によって古の魔族は退治され人間たちは解放された。その勇者が新しく再建国したというのがプラネテス王国で、その際以前の王族の生き残りは子供しか居なかった。


つまり、アリオト侯爵家は旧王族の一族が貴族に転じたもので、現在は反王政派…というか正統な王族は自分らであると主張している。まあ実はそれも最近で、先代までは王族と仲が良かったというか、忠誠的であったらしいんだけど。

今のアリオト侯爵がちょっとおかしいというか、ネジが外れてるというか、そんな感じ。

ちなみに旧王族の生き残りの一族ってことで優遇されてきたので魔力で地位が決まった他の貴族と違い、魔法の才能はあまりなかったりする。


王族の血筋であるユレイナス家にも度々食ってかかってくるようで父様も手を焼いていたはずだ。

それでアリオト侯爵家には三人の息子が居て長男が二十五歳、次男が二十歳、三男が十四歳だったはずだけど…。


「接触してきたのは末の御子息ですね」


「……、なるほど」


十四歳なら家の立ち位置とか、政治的な思惑とかあまり考えないで接触してきた可能性はなくはない。

ヴェラは天使のようにめちゃくちゃ可愛いのでお近づきになりたい気持ちは分からなくもない。


だから仕方ない……


「それで?可愛いヴェラを見た奴の薄汚い目は潰した?」


というワケは全くもって全然ない。


「リギル様落ち着いて下さい」


落ち着くだって?僕は落ち着いているさ。

ヴェラに軽々しく話しかけるなんて万死に値するだろ。うん、目を潰すだけで済むならとっても理性的。


「ちょっとお話しただけですよ」


「じゃあ口と耳も捥がないと」


「リギル様」


ユピテルは改めて落ち着けだなんて言うけど、僕がアリオト侯爵家を警戒しているのにだってちゃんとした理由はある。

ヴェラが十六歳、つまり今から四年後に両親が事故で死ぬのに誰かの思惑がある…、そう、黒幕がいるかもしれないからだ。


今の王族や王族の血筋を嫌うアリオト侯爵家は候補のうちで、ユレイナス家を失脚させたい可能性があるなら両親を殺すメリットは充分だ。

ゲームのリギルはお世話にも優秀とは言えず、悪評も高かった。両親が亡くなりリギルが跡を継げばユレイナス家のイメージが悪いまま滅びただろう。

まあ他にもゲームのリギルにも両親を殺す理由はあったし、他の公爵家が黒幕の可能性もあるし、アリオト侯爵家がクロとは言えないけど。


そんなこんなでアリオト侯爵家は警戒の対象で、ヴェラには特に絶対に関わって欲しくない。


まあヴェラに近づく野郎は家とか関係なく絶許なんだけど。(本音)


「私が上手くあしらっておきましたから」


「…、…ユピテルが一緒で良かったよ」


ユピテルが居ないときにエンカウントして関わり合い(お茶会に誘われたりとか)になったらたまったもんじゃなかった。

ただでさえヴェラは社交界に顔を出してないうちからモテモテで求婚の手紙とか来てるのに。

あ、ヴェラに見せずに父様合意の上で燃やしてるけどね?


ユレイナス家を目の敵にしているくせにヴェラにわざわざ話しかけてくるなんてなんか思惑があるとしか思えない。


「アリオト公子様はヴェラ様に好意があるだけなのではないでしょうか」


「それはそれで潰す」


「…、本当にヴェラ様のことになるとタガが外れますね…」


ユピテルが呆れ顔をしている。ヴェラを好きな男はそれはそれで許せない。まだヴェラは12歳なんだから恋愛とか全然早いし。

ヴェラの美しさや可愛らしさにひれ伏して恋愛感情の一切ない信仰をするならちょっとは一考の余地があるけど。


「逆にユピテルはどう思う?見た目しか知りもしないのにヴェラを愛してるとか好きとかほざく男」


僕がそう聞くとユピテルは黙ってしまった。何か難しい顔をしている。

ユピテルはユピテルなりにヴェラを妹のように思ってくれているとは思うんだけど、違うんだろうか。


「……、貴族を殺すのはマズイのでお腹が痛くなる呪いくらいならかけましょうか?」


ユピテルってば分かってる!!!


どうやらユピテルなりに加減して処遇を考えていてくれたらしい。

度をすぎてヴェラに接近してくる奴にはユピテルの魔法で三日三晩腹痛に苦しむ呪いをかけてもらうことで合意した。闇魔法でできるらしいので僕も教えて貰おうっと!

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