第2章 友と2人で at 上信電鉄上信線
友と2人で①
春休みに幼馴染みのさくらと再会してから1ヶ月。無事に高校を卒業した私の肩書きは大学生へと変化した。
千代田女子大学。東京都心のど真ん中、
不慣れな電車通学に右往左往しながらも、ガイダンスが終わり、初回の講義が終わり、少しずつ大学生としての雰囲気に慣れ始めた。まだ桜の花は綺麗に咲いている。そんな時期。
高層ビルのようなキャンパスの17階。そこにある学食に私はいた。うどんの乗ったトレーをこぼさないように慎重に持ち運びながら、窓に面したカウンター席へと座った。眼下には御茶ノ水と神保町の町並み。少し視線を上げれば皇居と東京都心のビル群が広がっている。座る場所を変えればスカイツリーや富士山まで見えるだろうと思われるくらい青空が澄み渡っていた。
こういう景色を見ていると、本当に都心のど真ん中にいるんだな、と実感できる。私の住む埼玉は大宮の街も充分都会だったけど、やはり都心は段違いだ。どこまでも建物が連なっている。壮観。
「おっ、やっぱここにいた」
と、そのとき、何の遠慮もなく隣にドカッと座ってくる人物がいた。
「知ってるか? ここぼっち席って言われてんだぞ?」
そこにはへらへらとした笑みを浮かべるさくらがいた。小さい頃からの幼馴染み。一番の親友。たぶん。
「お前、友達いないの?」
「いるよ、失礼な」
返答しながら麺をすすった。ぼんやりしてると冷めちゃう。
「いやいや、私じゃなくてさ。学部の友達」
「だから、いるって言ってんじゃん」
相変わらず遠慮がない。まあ、そういうところが良いんだけど。
「でも、一緒じゃないんだ」
「次の講義は隣の棟なの。友達の方がね」
人気の講義だから席を確保するのが大変だって言ってた。だから、先に行くんだと。
「さくらの方こそ、学部の友達と一緒じゃないの?」
「ああ、そうだよ。でも、みずほいるかなって思ったからこっち来ちゃった」
「なんで?」
「私がみずほと一緒にいたいからだよ。良いだろ?」
さくらは時々こうだ。妙にストレートに物を言う。オブラートに包むことをしない。
「何だよ? うどんかと思ったらゴム食ってたみたいな顔してるぜ」
いや、どんな顔よ。頬をぐにゅぐにゅとほぐした。
「どしたん?」
「別に。何でも」
意図なんかさくらにわかるはずないと思う。
「ほら、学部違うと昼休みくらいしか会えないじゃん? それこそ同じサークルとかでもない限りさ」
それはそうだ。でも、例えそうだとしても、私に会いに来てくれるのは嫌な気分じゃない。絶対口には出さないけど。
「そうだ。サークルとか入らねえの?」
「うーん、別に」
「そっかー。女子大だと鉄道サークルないもんな」
別にそういうわけじゃないんだけど?
「あっ、じゃあ作るか? 私らで。同好会」
「それは却下」
即答だ。
「なんでだよー」
「そういうのは違うなって思うの。なんか縛りみたいになっちゃうじゃん。あくまで趣味は趣味で自由にのびのびやってたいなーって」
「そっか」
さくらはいささか残念そうに肩を落としてるように見えた。
「絶対面接のネタになると思うんだけどな」
「あんた就活のために趣味やってんの?」
「いや、そういうわけじゃないけどさ」
とりあえず同好会のくだりは却下です。却下却下。
「あっ、そうだ。じゃあさ、今度2人でどっか乗りに行かね? 今週末あたりどうよ?」
随分と唐突だな、と思った。まあ、今週末なら空いてるけど。それにさくらと2人で行くのなら悪い気はしない。そもそも、子供の頃からあっちこっち一緒に行ってた仲だし。
「構わないけど。どっか行きたいところあるの?」
「それはみずほが決めて良いよ」
誘っておいて行き先決めろってめちゃくちゃだな。まあ、良いけど。旅程を立てるのは嫌いじゃない。時刻表とのにらめっこはお得意様だ。
「行くならまだ乗ってないところが良いよね」
もしくは、明確な行き先があるか。その上でローカル線であることが必須条件だ。私は別にどこかに遊びに行きたいわけでもなければ、何か美味しいものが食べたくて出かけるわけでもない。
私が求めるのは非日常だ。それも都会とは正反対の。だから、地方のローカル線に乗るのだ。都会の喧噪から離れ、閑静な非日常の世界に浸るために。
そうだ、
「
我ながら中々良いチョイスではないだろうか。
「それは却下」
と思いきや速攻で拒否られた。
「なんで!?」
「真岡鉄道といえばSLだろ? ちょうど車両の保守点検で今週末走らねえんだよ」
むむっ、一理ある。折角真岡鉄道に乗るならSLは絶対に外せない。それに乗れないとなったら選択肢からは外さざるをえなかった。
じゃあ、後はどこだ? 関東だともう他に鉄印をもらってない路線はない。じゃあ、別の観点から考えようか。
まだ乗ってない路線。折角なら沿線に観光要素もあると良い。そして、関東近郊。
北関東から順番に脳内の路線図を
「あっ」
そして1つ、私は選択肢を見つけ出したのである。
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