第54話

☆☆☆


最初の一周目は様子見だった。



まだどこになんのトランプがあるのかわからない。



しかし二周目に入ってすぐ浩成がワンペアをそろえた。



「まじかよ」



偶然とは言え、最初にペアを作る事ができるのは有利だ。



綾はゼロ。



自分のターンが来たとき、俺は少しだけ力を込めてカードを開いた。



よく見ないとわからない程度に曲線がつく。



「当たらねぇなぁ」



そう呟き、カードを戻す。



その時にもう一方のカードの端を爪の先で折り曲げた。



曲がったカードは4、端が少し折れているカードはクイーンだ。



心の中で汗が噴き出す。



浩成や鬼にバレるんじゃないかと冷や冷やしたが、誰にも気が付かれることはなかった。



これで最低でも2ペアはいけるはずだ。



いざとなれば綾に譲ってやってもいい。



3周目になると綾が2ペア、俺が1ペア当てた。



浩成の表情が険しくなってくるのがわかった。



だけど、勝負はまだこれからだ。



ほとんどのカードがまだめくられていない状態だ。



幼い頃経験した神経衰弱とは違い、張り裂けそうな緊張感が漂っている。



さっきから子鬼たちも固唾を飲んで見守っている。



そのまま黙って続けていると、鬼が大きな欠伸をした。



見るとつまらなさそうにこちらに視線を向けている。



生死をかけたゲームにしては地味すぎるのかもしれない。



だけど、このゲームを用意したのは鬼の方だ。



「お前らさぁ、本当にちゃんと記憶して行ってんのかよ」



鬼がそう言いながら近づいて来た。



思わず身を引いて鬼の場所を開けてしまう。



「これとこれ、これとこれだろうが~」



鬼が勝手にカードをめくり、自分の手持ちにしていってしまう。



「な、なんでそんなこと……」



浩成が焦ったようにそう言った。



自分たちのとれるカードが少なくなってしまう。



「お前らがトロトロしてるからだろ? ほら、次は誰の番だ?」



鬼はテーブルから離れようとしない。



どうやらこのまま神経衰弱を続けるつもりでいるようだ。



今の段階で俺は2ペア。



綾は4ペア。



浩成は2ペアだ。



鬼の記憶力はすさまじく、次々とカードを当てて行く。



テーブルの上のカードはどんどん少なくなっていく。



やばい。



このままじゃ俺か浩成が負けてしまう。



浩成は顔をひきつらせ、目を充血させながらカードを凝視している。



俺はゴクリと唾を飲みこんだ。



幸い、俺が印をつけたカードはまだ取られていない。



鬼がカードをめくる。



クイーンだ!



そしてもう一枚開いたカードは4!



心臓が爆発してしまいそうなほど高鳴っている。



いかさまが鬼にバレたらきっと殺されるだろう。



だけど、取るなら今しかない!



俺は端が折れたカードをめくった。



クイーン。


「あ~、まじかよ」



鬼が隣で悔しがっている。



俺はさっき鬼がめくったクイーンを選んだ。



1ペア。



どうする?



ここで続けて4を取るか、それとも次のターンまで我慢するか……。



カードの上で手を彷徨わせる。



続けて取れば怪しまれるかもしれない。



だけど、次のターンが回って来るかどうかはわからない。



俺は意を決して4のカードを開いた。



これで4ペアだ。



チラリと浩成に視線を向けると、その顔は真っ青になっていた。

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