第52話

額に汗が滲み始めていた。



腕立て伏せのせいで両腕はとてつもなく重たい。



動けば動くほど広間は笑い声に包まれる。



俺は必死に腰を動かし、ひょっとこになり切っていた。



この動きが正しいのかどうかはわからないが、笑い声が聞こえてきている間は安心だ。



子鬼たちは十分に楽しんでいる。



汗が流れ、目に入る。



「いっ」



小さく呻き、片目をつむった。



重たい両腕を天井へ突き出したまま、グネグネと動かす。



しかし、目に汗が入った事でさっきまでの機敏さを失ってしまった。



涙がボロボロとこぼれ出す。



腰の動きが止まる。



やばい。



このままじゃ痛みに負けて動きが止まってしまう。



グッと奥歯を噛みしめて再び腰を振る。



子鬼たちの笑い声が大きくなる……。



「あ、お前らもういいぞ」



そんな声が聞こえて来て俺は動きを止めた。



終わったのか?



周りは見えないが、まだ子鬼たちの笑い声は聞こえてきている。



恐る恐るお面を外して周囲を見回した。



ステージに立っている綾と浩成もお面を外し、瞬きをしている。



俺は汗が入った方の目をこすり、笑い続けている子鬼を見た。



なんだ?



どうして笑ってるんだ?



お腹を抱えて笑っている子鬼たちの視線を先へと顔を向ける。



そこにいたのはひょっとこのお面を付けてカクカクと踊っている鬼だった。



「なんであいつが躍ってんだよ……」



浩成が呟く。



子鬼たちの笑い声は俺たちへ向けられていたものではなかったようだ。



「あ~、おもしろかった」



さんざん踊りまくった後、鬼が満足げに言ってお面を外した。



呆然と立ち尽くす俺たち。



「ん、お前らどうした? 面白かっただろ?」



そりゃまぁ確かに面白かった。



鬼がひょっとこのお面を被って踊ってるんだからな。



でも、どうしてお前が躍ってんだって話だよ。



「あ、そういえばゲームの最中だったなぁ。悪いなお前らの見せ場とっちまってさぁ」



鬼はわざとらしくそう言うと真っ赤な舌を出して見せた。



効果音がつくならペロッ☆というところか。



そんな可愛いものでもないけれど。



「仕方ねぇから、次のゲームいくかぁ」



「い、今のゲームの勝敗は!?」



慌てて聞くと、鬼が「はぁ? そんなん俺の1人勝に決まってんじゃん」と言った。



お前も参加してたのかよ!



クソッ!



せっかく頑張って恥ずかしい動きを繰り返したっていうのに。

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