4.野宮神社

 その日の午後、僕たちは大覚寺から野宮ののみや神社へ行った。僕は今日の夜には東京へ帰らなければならない。東京へ帰る前に、僕はどうしても瑠香と野宮神社へ行きたかった。


 野宮神社の鳥居をくぐって歩くと、本殿の向かって左側に野宮大黒天が鎮座している。縁結びの神様として有名だ。参拝した後に『お亀石』と呼ばれている神石を願いを込めてさすると必ず良縁が得られるといわれている。


 僕と瑠香は野宮大黒天にお参りした。もちろん、僕は瑠香との幸せがいつまでも続くようにと祈った。


 瑠香は野宮大黒天の前でずっと眼を閉じて手を合わせていた。木々の間から太陽の光が洩れて、真摯にお祈りをする瑠香の顔に当たっていた。風が吹くと、瑠香の顔の緑が揺れた。僕は緑に揺れる瑠香の顔をじっと見つめた。


 それから、僕たちは二人一緒に『お亀石』をさすった。ここでも瑠香は眼を閉じていつまでも一心不乱に石をさすっていた。石の黒い表面に、眼を閉じている瑠香の顔の白と木漏れ日の緑が映っていた。そんな瑠香がいじらしくて、可愛くて・・僕の眼から涙が落ちた。


 僕は思わず石をさする瑠香の手をとった。瑠香が驚いて眼を開けた。


 「瑠香。もう大丈夫だよ。瑠香の想いは充分に神様に通じたよ・・きっと、これからはいいことばかりが僕たちに起こるよ」


 瑠香も僕の手をとった。木漏れ日を浴びた瑠香の瞳がきらきらと光っていた。


 「ええ、そうね。こんなにお祈りしたんだもの・・・きっと、いいことが起こるよね」


 瑠香の弾んだ声が境内に響いた。


 



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