第12話
その晩、私は夢を見た。
白い不思議な空間で、小さな女の子が目の前に立っていた。
可愛いらしいピンクのワンピースを着てうさぎの付いたヘアピンをした幼い女の子は、私を見て不安そうに瞳を揺らしながら口を開いた。
『お父様は……私が居なくなって、喜んでくれた?』
『あなた……もしかしてルヴィアナちゃん?』
まさかと思い尋ねると女の子はこくんと頷く。
『悲しんでいたよ。ルヴィアナちゃんを愛してあげられなかったって後悔してた』
『そっか……悲しませたく、なかったのにな……喜ばせるって難しいね』
今にも泣き出しそうに笑うルヴィアナを私はぎゅっと抱きしめる。
小さな手が抱きしめ返してくれた。
『あのね、今、私は生まれ変わって新しいパパとママの所で暮らしてるの。ルヴィアナとしての記憶はだんだん忘れちゃうけど、でもね……とっても幸せよ。もうすぐ弟も産まれるの、私お姉ちゃんになるのよ』
ルヴィアナは優しく微笑むと私の手をぎゅっと握った。
『私は幸せになれた。だからお父様にも幸せになってほしいの。私の体に入ったお姉さん、お父様の事……お願いしてもいいかな?』
我儘でごめんなさいと俯くルヴィアナの頭を優しく撫でる。
欲しがっていた愛情を受けられなかったのにそれでも父親を慕い幸せを願う、その姿に胸が締め付けられた。
『うん、頑張ってみる』
『ありがとうっ!ふふ、私の体に入ったのがお姉さんでよかった!あ、でもお姉さんもちゃんと幸せになってね?』
私のことまで心配してくれるとか、この子は天使だろうか。
『ありがとう。大丈夫よ、自分の幸せは自分で作れるから』
安心させようと笑ってみせるとルヴィアナはぱっと表情を明るくした。
『素敵な言葉ね!自分の幸せは自分で作る、か……ルヴィアナだった記憶はだんだん忘れてしまうけど、この言葉は絶対に忘れない。ありがとうお姉さん!』
ルヴィアナの微笑むその表情はどこかで見たことある気がする。デジャヴだろうか。
『ねぇ、ルヴィアナちゃん。ルヴィアナちゃんの今の名前って何?』
『いまむら ゆみ、だよ。素敵な名前でしょ?』
『……っ!その名前って』
『あ、もう時間みたい。バイバイ、お姉さん』
私の言葉を遮るように強い光が私達を照らす。
次に目を開けるとそこはベッドの上だった。
「ゆみ……」
ルヴィアナの新しい名前、それは私の唯一の友達と同じ名前だった。
何か不思議な縁を感じながら、私はルヴィアナとの約束を果たすためにもこのまま彼女の体で最期まで生きることを決めた。
目が覚めると私はすぐにベッドから降りる。
急いでルヴィアナの言葉をサイアスに伝えなくてはと思ったのだ。
しかし同時に部屋がノックされた。
「お嬢さん、起きてるか?」
クローケンの声だ。
ドアを開けると少し眠そうなクローケンが立っていた。
「おはよう、クローケンさん。どうしたの?」
クローケンは私と目線を合わせるようにしゃがみ込むと申し訳無さそうに口を開いた。
「旦那が……魔王陛下が呼んでる。話があるんだそうだ」
丁度いい。
私はすぐに出向く支度を整えてクローケンと一緒にサイアスの部屋に向かった。
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